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009 お帰りなさい

西宮陽にしみや よう視点>


 何が起きたのかさっぱりわからない。あれはいったい何だったんだろうか。彼女、そう国民的無敵美少女、佐々木瑞菜ささき みずなが僕に付き合って欲しいと告白してきた。そして僕はそれを受けた。


「・・・」


 撮影が終わると共に彼女は連れていかれた。前もって用意された脚本?バラエティ番組なんてそんなものだ。視聴者が一時的に喜ぶだけのもの。そこで僕、西宮陽にしみや ようは道化を演じただけ。いいじゃないか!一生会えない美少女と出会えたのだから。最高に幸運な体験だ。


ピンポーン。


 訪問を告げるベルが鳴る。また、誰か来たのかな。そうだ、妹の西宮月にしみや つきは。・・・。固まっている。まあ、当然だ。妹にとって、佐々木瑞菜は憧れの天使だ。僕よりも驚いたことだろう。僕たち兄弟に訪れた人生最大のイベントだもんな。


ガチャリ!


 玄関の扉が開いた。


「えっ!」


 佐々木瑞菜が顔を出した。


「戻ってきちゃった」


 撮影はとっくに終わっている。忘れ物でもしたのかな?彼女の唇から白い歯がこぼれている。歯磨きチューブのCMにも出ていたっけ。スラリと並んだきれいな歯が、白いワンピースとマッチングしていて美しい。口元がゆっくりと動いて言葉を発する。


「だって、煮込みハンバーグ、まだいただいてませんから」


 そうだ、ハンバーグ。僕はハンバーグを作っていたんだ。記憶がちょっとずつ鮮明になっていく。デミグラスソースの香りが漂っている。僕の周りの風景が色づき始める。


「お帰りなさい」


 って僕、いったい何を言っているんだ。動揺するといつも在らぬことを口走ってしまう僕の悪い癖だ。


「ただいま」


 脚本の続き?それとも話を合わせてくれているだけ。彼女は満面の笑みでもう一度言った。


「ただいま」


「お帰りなさい!」


 横にたたずむ妹が言った。泣いているのか笑っているのかわからない顔だ。目がウルウルと光り輝いている。こいつ、こんな健気な顔もできるんだ。驚きだ!


「兄貴、何やっているの!はやく夕飯の支度をしないと。ハンバーグがさめちゃってるよ」


「ふふっ。月ちゃん、私にも手伝わせてください。いこっ。陽くん!」


 佐々木瑞菜は靴を脱ぎ捨てて僕の手を握った。白くほっそりとしてやわらかい手。ぬくもりが手の平に伝わってくる。今日、初めてあったばかりだと言うのにそんな気がしない。まあ、いつもテレビで見ているせいだろうけど。でも目の前の彼女はどこか違う。


 テレビの中の人を寄せ付けない完璧な美しさとはどこか違う。画面に映る彼女が『バラ』ならば、僕の手を引く彼女は『たんぽぽ』のようだ。これが佐々木瑞菜の真の姿なのかもしれない。と、言っても美しさが軽減されたのとは違う。むしろ更に神々しい。僕の中の彼女の魅力はもう一段、高みへと上がったのだった。


 妹の月に導かれるように、僕たちはリビングを抜けてダイニングキッチンへと向かった。僕の作った最高のディナー、自信作を食べてほしい。そして、彼女の喜ぶ顔が見てみたい。

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