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妹のラブレターを代筆したら、無敵美少女アイドルと同居することになった。  作者: 坂井ひいろ
Season2

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89/99

221 魔法のアイテムと魔法の言葉

<佐々木瑞菜ささき みずな視点>


 西宮陽にしみや ようくんが私の指に通してくれた婚約指輪。嬉しいです。私の二番目の宝物です。一番はやっぱり陽くん本人です。ふふっ。神様!ありがとうございます。こんな素敵な人と出会えて、私は世界一の幸せ者なのです。


 三番目のお宝は陽くんが書いたラブレター。妹の西宮月にしみや つきちゃんが私たちの恋のキューピッド。私と陽くんを結び付けてくれました。お茶目でキュートで、本当の妹みたいな存在です。あのラブレターが無かったら、私たちの運命は交わることすらなかったでしょう。今でも肌身離さず持ち歩いています。


 春に陽くんと出会ってから、私は大きく成長したと思います。陽くんは他人の為に一生懸命になる男の子です。神様から与えられた才能を惜しげもなくつぎ込みます。見返りとか全然考えていない仙人みたいな人です。側にいるだけで安らぎを与え、勇気と元気を創り出してしまう。本当に不思議な人です。


 今、私の目の前に陽くんを育ててくれたご両親がいます。会ってすぐに家族のように私を受け入れて下さった西宮家の西宮新にしみや あらたさんと西宮沙希にしみや さきさん夫妻。テレビ電話でお話したことがありますが、実際に二人を目の前にして、更に感謝の気持ちが高まります。


「一人暮らしだった私を迎え入れていただいて、本当にありがとうございます」


 私はご両親に深々と頭を下げました。


「い、いや。こちらこそ。好き勝手しかできない陽の面倒を見ていただいて感謝しております。ご活躍はテレビで幾度となく拝見しておりました」


「父さん。なんかガチガチなんですけど」


 陽くんったら照れ隠しですか。


「ば、バカを言え。国民的無敵美少女アイドル、佐々木瑞菜さんを前にして、緊張しないものがどこにいる」


「お父さん。ほら。あれを・・・」


 陽くんのお母さん、沙希さんがお父さんの隣りでそあそあしだしました。大きなスーツケースを引き寄せて、お父さんに向かって小声で何か言ってます。


「まて、まだ早い」


「そんなこと言ったって・・・」


 二人して真剣な眼差しで私を見つめてきます。どうしたんでしょう。


「瑞菜さん」


「はい」


「すまん!こっ、これを頼まれてくれんか」


 お父さん、大きな体を縮めて深々と頭を下げられても、何のことか。


「はい。私にできる事なら、どんなことでもおっしゃってください」


 陽くんのお母さん、沙希さんがスーツケースのロックを外した。


 ドサッ!


 中から大量の色紙が飛び出してきました。大きなスーツケースの中には、着替えも生活用品も入ってません。色紙で満たされていたのです。


「ほら。お父さんしっかりして。あなたが安請け合いするからこんなことになったんですよ。最後までちゃんとお願いしましょうね」


「・・・」


「父さん!何ですかこれ?」


「いやっ。つい嬉しくて。陽のボクシング大会の後、記者会見の動画を見せて回ったらこんなことに」


「自慢の息子のフィアンセだって、だれ先構わずに自慢するものだからサインを頼まれちゃって・・・」


「沙希!おっ、お前だって国民的無敵美少女アイドル、佐々木瑞菜さんが息子の嫁だと言い回っていたじゃないか」


 フィアンセ!嫁!!顔から蒸気が噴き出しそうです。


「それで色紙がこんなに・・・。あっ!このノートは何ですか?」


 陽くんが色紙と一緒に飛び出したノートをつまみ上げて、パラパラとめくりました。あて名やメッセージの依頼がびっしりと書き込まれています。


「すまん」


「ごめんなさい」


 陽くんのお父さんに加えてお母さんまで、ソファーに座った体を小さくしてうなだれました。


「こんな親でごめんなさい」


 陽くんも。親子三人で頭を下げられても・・・。


「分かりました。心配しないでください。私、サインを書くのは得意なんです。これくらい全然問題ありません。陽くんのご両親のお役に立てるならへっちゃらです」


 私はスーツケースから飛び出した色紙を見つめて言いました。


「いやっ、それが・・・」


「父さん!まだ何か隠しているんですか」


「母さん」


 お母さんに助けを求めようとする陽くんのお父さん、目が宙を泳いでいます。


「玄関にこれと同じものが三つほど・・・」


「フランスからの帰国の荷物が全部色紙なんですか」


 呆れかえる陽くん。


「いやっ。それでも足りなくて後から空輸で・・・」


「私、やります。やり遂げて見せます」


 そうです。私は国民的無敵美少女アイドル、佐々木瑞菜。陽くんのご両親の為の初仕事。キラリと光る薬指の婚約指輪。フィアンセ!嫁!!陽くんからの魔法のアイテムとご両親からの魔法のお言葉で、今の私はミラクルアイドルにだってなれるのです。


「瑞菜さん・・・。僕も手伝います」


「あなた!私たちも」


「お、おう。サインペンを買ってくる」


 こうして、私達は挨拶もそこそこにサイン書きの作業に取り掛かったのです。


「と、父さん!これ・・・。フランス大統領の依頼じゃ」


「大使館勤めなものでつい・・・。ほら、母さんなんて・・・」


 フランスの有名な俳優や女優の名前がびっしりとノートに記されています。陽くんのお母さんがミーハーとは聞いていましたが、そんな人まで私のサインを欲しがるなんて不思議です。


「佐々木瑞菜さん主演のドラマがフランスで大ブームになっていて・・・。つい、出来心なんです」


「母さん。瑞菜さんの名前を使って有名人に近づいたんですね」


 そう言えば、事務所の宮本京みやもと けい社長が秋からヨーロッパ全土でドラマを順次放映すると言っていたような。京社長はお金が関わることになるととんでもない力を発揮します。


「そっ、そうなんですか?」


 陽くんの目がまんまるです。かわいい。


「おう。国民的無敵美少女アイドル、佐々木瑞菜さんは世界的無敵美少女、『幸運の女神』と呼ばれている」


 自分の事のように喜んでいる陽くんのご両親。


「『幸運の女神』ですか。僕はもっともっと頑張らないと、いつまで経っても瑞菜さんに追いつけません」


 ため息をついてしょげかえる陽くんが愛おしい。


「そんなことないです。陽くんは私の一番です」


 でも、これじぁあ、私の指に『サインだこ』ができちゃうかもです。ふふっ。私の四つ目の宝物は『サインだこ』に決定なのです。

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