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妹のラブレターを代筆したら、無敵美少女アイドルと同居することになった。  作者: 坂井ひいろ
Season2

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88/99

220 心の準備ができていない。

西宮陽にしみや よう視点>


 僕が『フォーシーズンリゾート』企画を鈴木総理にプレゼンテーションした日からから世の中が目まぐるしく動き出した。建築、交通、観光、レジャー、通信、学校、金融、伝統工芸。あらゆる産業界が名乗りを上げて、新しい街づくりの模索が始まった。


 医療や介護、農業やエネルギー等、想定外の産業分野も参入して、さながら日本の総力戦と言うような大きなうねりを作り出している。専用SNSが開設されて、全国から思いもしなかったアイデアが続々と寄せられている。マスコミは連日のように進展を報道し、特集を組んだ。


『いやー。大変なことになりましたな』


『正に明治維新以来の文化の転換期が訪れようとしている』


『そうですね。日本企業が、これほどまでに活気づいた姿はここ最近は見たことがありません』


『大企業の独占ではなく、中小、零細企業からもアイデアがどんどん生まれてきます。個人で独立開業するものまで参加してますからね』


『日本には、世界では類を見ない百年を軽く超えて存続している老舗が沢山あるんですよ。正に伝統文化さまさまですな。こうした企業のポテンシャルは途方もない財産です』


『全くです。アイデア勝負で誰でも参加できるんですから驚きです。採用の可否をクラウドファンディングに委ねるなんて、新しい時代の流れですな。資金のない若者でも気兼ねなく参加できる』


『税金を一切投入しないと言う鈴木総理の英断ですね』


『日本国内だけでなく外資系の大型投資ファンドまでクラウドファンディングに参加して、数十億の企画までどんどん進めてますからね』


『民衆パワーのたまものですな。世界中の資金が流れ込んで、日本の未来に期待しているんですから』


 僕、西宮陽にしみや ようと国民的無敵美少女アイドルの佐々木瑞菜ささき みずなさんは、西宮家のリビングでくつろぎながら、のんびりとお昼のワイドシューを眺めていた。僕はテレビを見つめる瑞菜さんの横顔に魅せられている。澄んだ瞳に光が宿っている。


「陽くん。なんか、もの凄いことになってます」


「うん。みんな、とってもいい顔をしています」


「そうですね。元気があるって素晴らしいです。ところで、陽くんは参加しないのですか」


「僕の役目は終わりですね。後は『YADOYA』に集う仲間たちにお任せしました。彼らのアイデアはすごいんですよ」


「ふふっ。陽くんらしいですね。陽くんはやっぱり仙人みたいです。本当に欲が無いんですね」


 僕の方を向いてほほ笑む瑞菜さんの笑顔は神々しい。


「欲ならありますよ。僕の望むものは国民的無敵美少女アイドルの佐々木瑞菜さんです。こんな贅沢、普通は望まないでしょ」


「もう、陽くんったら」


 恥ずかしそうに顔を赤らめる瑞菜さん。なんて素敵なんだろう。


「僕も少しは佐々木瑞菜さんに相応しい男になりましたかね?」


「十分すぎるくらいです」


 ソファーに一緒に座っていた瑞菜さんが、僕の方に体を寄せてくる。艶やかな黒髪からシャンプーの爽やかな香りがほのかに流れてくる。僕は彼女の手を取って白い指を見つめた。細くてしなやかな指、一本ずつを確認するかのように触れる。


「恥ずかしいからやめてください」


 更に顔を赤くする瑞菜さん。細い首も可愛らしい耳も真っ赤だ。ついつい、意地悪をしたくなる。


「やめませんよ」


「もう直ぐつきちゃんが学校から帰ってくる時間です」


「妹のつきなら、ヘレン・M・リトルちゃんと一緒に森崎弥生もりさき やよいさんの所に直行です。『Be Mine』の春夏ファッションショーが近いですから、しばらく泊まり込みだと意気込んでました。宮本京みやもと けい社長と弟子の矢内真司やない しんじくんは鈴木総理の裏参謀として『フォーシーズンリゾート』企画のまとめ役を始めたみたいです」


「じぁあ。暇なのは私達だけですか?」


「そうみたいです。あっ、僕は暇じゃありません。瑞菜さんのお休みを待ちわびていたんです」


 僕はポケットから白い小さなケースを取り出した。ゆっくりとフタを開く。プラチナの台に輝く石をのせた指輪が現れる。


「これ!ダイヤモンドですか?」


 恥ずかしすぎて、何かしゃべっていないと心臓が爆発しそうだ。


「はい。今回の件で少しばかり、まとまったお金を手にすることができました。僕にとっては初任給みたいなものです。宮本社長と弥生さんには先を越されてしまいましたけど、婚約指輪です。『YADOYA』に来ていた宝石デザイナーさんに無理を言って作ってもらいました」


 僕は、深く息を吸って心を落ち着かせる。中の指輪を取り出して瑞菜さんの左手の薬指に通した。サイズもピッタリだ。キラキラ光るダイヤモンドが、彼女の指を彩っている。瑞菜さんは無言で、食い入るようにそれを見つめる。


「ありがとうございます。陽くん。私は世界一の幸せ者ですね」


 瑞菜さんの頭が僕の肩にもたれかかってくる。僕は彼女の頭に自分の頭をそっとのせた。


「僕もです」


 テレビのコメンテーターの掛け合いが、リビングに鳴り響いている。窓の外が午後のやわらかい光が差し込んでいる。二人だけの時間。・・・。


 ピンポーン!


 玄関の呼び鈴が鳴った。


「また、邪魔が入ったみたいです。居留守でも使いますか」


 どうして僕の周りはいつもこう忙しないのだろう。たまには、ほっておいて欲しい。


「陽、いるんだろ!帰ったぞ」


「陽くーん。帰ってきたわよ」


「父さんと母さんだ!クリスマスは、まだ当分先なのに」


「フランスに行っているお父様とお母様?」


 なんてことだ。何の連絡も受けていない。父さん流のサプライズだろうが、タイミングが悪すぎる。玄関の鍵を開ける音。パタパタと廊下を歩くスリッパの音が近づいてくる。心の準備ができていない。瑞菜さんを紹介しなきゃ。

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