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妹のラブレターを代筆したら、無敵美少女アイドルと同居することになった。  作者: 坂井ひいろ
Season2

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80/99

212 まだなんにも・・・。

西宮陽にしみや よう視点>


 あわただしい人たちが帰って、西宮家は久しぶりの団らんを過ごしていた。妹の西宮月にしみや つきと佐々木瑞菜ささき みずなさんと三人。瑞菜さんはすっかり西宮家の一員メンバーとして馴染んでいる。


 日本に戻ったその日に森崎弥生もりさき やよいさんの結婚の話を聞かされるとは思ってもみなかった。しかも相手は、あの宮本京みやもと けい社長さんだ。なにがどこでどうなったら、そんな展開に進展するのだろうか。僕にはサッパリ理解できない。


 それなのに妹も瑞菜さんも、すんなりと受け入れてしまった。女の子の恋愛観ってそんなものなのだろうか。異常な状況で恋に落ちた二人は長続きしない。って、どこかで聞いたような気がするけど、大丈夫なのだろうか。余計なお世話と思いながらも、少しばかり心配になった。


「なあ、つき。弥生さんが結婚するって話、お前、気づいてたのか。『Be Mine』の件で弥生さんと連絡を取り合っていただろ。二人はいつからそんな関係になったんだ」


「ぐふふ。兄貴は本当にニブイ!女子のことになるとまるで鈍感なのじゃ。女の子は恋をしていなけれは生きられない生物だって知らんのか。


 思い続けてきた幼馴染にフラれて仕事に生きると自分に鞭打つ女がいるとする。そこに新たな人が出現する。その人は大人の魅力で、自分の知らない世界にグイグイと連れ出してくれる。


 うほっ。こんな世界があったなんてー。私はなんて狭い世界で生きてきたの。なんであんなつまらない男で満足してだんだろ、私って。神様、ありがとう。ぎゃはは。世界を変えてくれる人こそ、私の求めていた真の勇者様なのだー。って感じなのだよ!」


 ぐっ。三流のライトノベルのようなストーリー?しかし、なぜか説得力がある。まさか中三の妹に恋の手ほどきを受けることになるとは。確かに宮本社長の行動力は半端じゃない。あのパワーはいったいどこから生まれてくるのだろうか。宮本社長の日常はつねに異常なのだから、僕の心配は取り越し苦労なのかもしれない。


「そう言うものか。少し理解できた気がする」


 妹のつきが立ち上がって僕のもとに飛び込んでくる。顔がドアップだ。近い!鼻息が顔にかかるんですけど!


「で、兄貴!兄貴は船旅でやるべきことを、ちゃんとやってきたんだよね」


 つきが僕の仕事に興味を持っていたなんて意外だ。ちょっと嬉しい。血を分けた兄妹じゃないけど、想いを共有できるなんて考えてもみなかった。妹ももう中三だものな。大人になっていくつきを見るのは兄貴冥利に尽きると言うものだ。


「も、もちろんだ。想像以上の成果だ!これでカフェ『YADOYA』に集まってくる色々なアイデアを具現化できる。みんなも喜ぶよ」


「兄貴!そっちじゃないから」


「えっ?」


「だーかーら!」


「なに?」


「もう、鈍感!」


「瑞菜様ー。ゴメン。まさかと思ったけど。お願いなのじゃ。兄貴のことを見捨てないでぐれー」


 いきなり瑞菜さんの胸に飛びごんでスリスリを始める妹のつき。まだまだ甘えたい年頃なんだろうか。瑞菜さんが猫を可愛がるかのように頭をなでている。なんだか本当の姉妹みたいで微笑ましい。思わず二人に見惚れてしまう。


なにかを察したのか振り向くつき。何故か睨み付けられる。敵意が瞳に宿っている。


「ちゃうわ!」


「いきなり言われても、なんのことか。ちゃんと言ってくれないと」


「女の子から言わすんかい」


「いや、そう言われても」


「困った兄貴じゃ。兄貴!瑞菜様と付き合いだして何カ月になるんじゃ」


「5月からだから5カ月ってところか・・・」


「んで」


「んで?」


「まさかキスだけってことはないよね。高校生にもなって!」


「な、なにを言い出すんだ。いきなり」


 瑞菜さんの顔が真っ赤じゃないか!つきのやつ。いきなりとんでもないことを。


「好き合っているなら、肌の温もり求めあうことも大切なのじゃ。プラトニックな恋愛なんてカビが生える。兄貴は天然記念物か。二人きりで旅行にまで行かせたんだぞ」


 みっ、瑞菜さんの顔から湯気が!気のせいだよな。


「うるさい。ちゃんとだな・・・。言わせるんじゃない」


「えっ!兄貴。そうなのか。ゴメン。ヘタレ兄貴のままかと思った。そうか、そうか。兄貴も成長したもんだ。うん、うん。そうでふたかー。国民的無敵美少女と天才兄貴の赤ちゃんか・・・。ぐふふふ。待ち遠しいのー」


 ぐっ。兄と妹の立場が逆転している。僕は妹に心配される兄貴なのか。なんてことだ。瑞菜さんに抱き着いていたつきは、瑞菜さんのお腹に、ほほと手をあててスリスリしだした。


「早く大きくなるんじゃぞ。ボク、待っているから」


 とんでもない勘違い。瑞菜さん!助けてください。


「ふふっ。つきちゃんったら。男の子と女の子のどっちがいいと思います」


「んーっ。ボクは女の子がいい!」


「ごめんなさい!私は男の子が良いかなー。陽くんみたいに優しくてカッコイイ男の子。早く会いたいです」


 瑞菜さん?そうなんですか!男の子?そうなんだ。いや、でも、まだなんにも・・・。


「留守の間に兄貴の荷物を、八重橋元気やえばし げんき先輩と移動したから。瑞菜様のお部屋にしているゲストルームに全部、運び込んだ。それと新品のダブルベッドはボクと元気からのプレゼント。ありがたく使うんだぞ」


 おい。ふざけているんだよね。勝手になにしてんのかな?


「あっ、それと兄貴の部屋は元気の部屋にしたから」


つきちゃん!ありがとうございます。陽くん。じゃあ、そろそろ寝ましょっか」


 瑞菜さんがピシャリと言った。怒るに怒れない。

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