210 じっくりと策を練るべきね
<森崎弥生視点>
私たちは矢内真司くんを宮本京社長と西宮陽にお披露目した。陽くんの驚き様ったら。それくらい真司くんのコスプレは完璧ってこと。誰がどの角度から見ても、ハッとするほどの美少女なのだ。
ファッションモデルだって思わず息を飲むようなスラリとしたボディライン。小さな顔につぶらな瞳。けがれを知らない透ける様な白くて無垢な肌。恥ずかしそうに頬を赤く染めた姿なんて、胸がキュンとなってしまう。
可愛いだけが売りのアイドルとは、一線を画する中性的でミステリアスな雰囲気が個性的だ。元祖、国民的無敵美少女アイドル、佐々木瑞菜さんの凛とした雰囲気とも違った、脆さと言うか、危うさと言うか。不安そうな瞳に吸い込まれそうだ。
「あのー。下半身がスース―して不安なんだけど・・・」
「うぼっ。スカートを押さえる恥ずかしそうな姿ががわいい!ほれっ!」
すかさず、西宮月ちゃんがスカートめくり。完全に小学生のノリになっている。
「わっ、バカ。パンツが見えるだろ!」
細長くて綺麗な脚!十代の女の子だったら嫉妬しちゃうほどの神脚だ。アイドルユニットにありがちな、下半身太めの女の子とは大違い。誰だって興奮せずにはいられない。
「すごいわ!少女漫画のヒロインみたいな美脚。これは武器になるわよ。コスプレ創作のインスピレーションが、止めどなく溢れ出てくる」
「せめてパンツルックに・・・」
「絶対だめ!これは主であるわらわの命令だ。ヤナイ。いや『プリンセス真子』のイメージはミニで統一ね!神脚降臨でキメポーズよ」
「無理だ!俺は男だ」
「ハイ、チーズ!」
いきなりスマートフォンで撮影する京社長!
「ニッ」
反射的にポーズを取る『プリンセス真子』。本当に嫌がっているのか?この子は。
パシャ。
「そんなバカな!」
「ブラボー。完璧なポーズ!見どころ十分だわ。かつての私を見ているようね。陽くん!例のアプリは使えるのかしら」
「ちょっと待ってください。確認します!」
陽くんはスマートフォンを取り出して、SNSで誰かとチャットをしだした。
「OKです。既に稼働して登録者も三十万人を超えているとのことです」
「じぁあ、登録するよ!世間がアッと言うのが見ものね」
「なんじゃ。そのアプリとやらは?」
ヘレンちゃんが目を輝かしている。私もそのアプリには興味津々だ。陽くんが作らせたものなら絶対に何かある。
「宮本社長に頼まれて作ってもらったアイドル発掘スカウトアプリ。略して『スカアプ』。『YADOYA』に来ていたプログラマーに話を持ち込んだら面白がってプロトタイプを、たったの一月で仕上げてくれたんだ」
「『プリンセス真子』でプロフィールの登録完了。後は先ほど撮った画像をアップするだけ。本当はスマホの中の自撮りからAIが自動的に可愛い写真を選んでくれるんだけど」
京社長はドヤ顔でアプリの説明を始めた。
「雑誌のモデル、アイドルなど、芸能界を夢見る女の子は多いでしょ。一昔前なら原宿や渋谷でスカウトマンに見いだされたり、オーディションに応募したりするのが一般的だった。でも、東京近郊ならともかく、地方の中高生にとってはハードルが高いのよ。そこで、陽くんにお願いしたのがこのアプリ。
アプリを入れるだけでAIが自撮りの写真やカラオケの歌声、会話の面白さ、運動能力などを勝手に分析してモデル事務所やプロダクションに売り込んでくれるのよ。全ての作業をAIが行うのでプライバシーも完璧。ニセのスカウトマンにだまされたりすることもないのよ。
私達みたいな事務所サイドも、全国規模で探せるのはとっても魅力的。その上、スカウトマンやオーディションにかかる費用を節約できるんだから願ったりかなったりね。採用前に名前を伏せて人気投票までできるんだから」
「気に入ったわ、そのアプリ。この、ヘレン・M・リトルが権利を全て買い取るのじゃ!ヤナイ。裏ルートで手を回すのじゃ」
「姫様!では『プリンセス真子』はお終いと言うことですね」
華やぐ『プリンセス真子』。男の子の時とは打って変わって表情が豊かだ。私のコスプレで、生まれ持ったアイドルの資質が開花したに違いない。
「バカ言ってんじゃないわよ!『執事』のコスプレが『アイドル』に変わってもそれくらいできるじゃろ」
がっくりと首をうなだれる『プリンセス真子』。細くて長い首!これはこれでうなじのラインがみように色っぽい。
「すごい!登録してたった十分足らずで、三十万人の登録者を押し退けて、ランキング百位以内に浮上したわ。写真一枚なのに規格外の拡散力!『いいね』カウンターが速すぎて追いついていないみたい。これがネットの魔力なのね。恐れ入ったわ」
みんなの中に京社長の熱気が伝播していく。今晩中にトップが狙えるかもしれない。こんなことはしていられない。コスプレの準備をしなきゃ。来年の春夏の新作は『プリンセス真子』でいくしか考えられない。
「京社長!実家に戻って『Be Mine』の春夏の新作衣装を取ってきます。月ちゃん。手伝ってくれる。私の一眼レフカメラをお願いね」
私立修学館高校生徒会、風紀委員長の時に幼なじみの問題児、西宮陽くんを監視するために無理して買った高級一眼レフカメラ。それがこんなところで活躍するとは。あの頃の記憶が蘇る。まだ半年しかたっていないのに遠い過去の様だ。ちょっぴり懐かしい。
「まあまあ、そんなに急がなくても。丁度、料理が出来たところですし、作戦会議でもしましょう」
「陽くん。そっ、そうよね。興奮しすぎたわ。こんな逸材は滅多に表れない。じっくりと策を練るべきね」
そうしている間も『プリンセス真子』のランキングは面白いように上がっていく。ヘタな動きをして、男の子とバレるわけにはいかないレベルにきている。
日本に帰国して真っ先に陽くん達のもとを訪れたのは、別の報告があったからだ。その事をすっかり忘れていた。京社長と目が合う。社長もそのことを思い出したようだ。




