206 不思議の国のヘレンちゃん
<西宮月視点>
本当にトラック一台分の金松堂のいちご大福がやってきた。いちご大福もこれだけ大量に集まると食べ物と言うより、丸い物体と呼ぶのがふさわしい姿だ。キッチンの食べ残しは綺麗に処分できたが、代わりにいちご大福が堆く積まれて歩く場所もない。いちご大福に埋もれる幸せ。夢の様だ。
「月さん。お約束は果たしましたよ」
矢内真司と名乗るこの男。食べ残しに生えた得体のしれない生物など物ともせず、テキパキと無駄のない動きで作業をこなして片づけていく。コンロを磨き上げ、換気扇の油汚れまで分解して丁寧に掃除してくれた。
うぐっ!お隣さんの執事は案外使えるかも。しかもイケメン。シメシメって、ちゃうやろ。月には八重橋元気先輩がいるじゃないか。
「ヤナイ!何をしておるのじゃ」
いつの間に!ここは月の家の中なんですけど。銀髪の青緑の瞳の美少女。本物の外国人?うひょ、かわいい。不思議の国のアリスちゃんみたいだ。月好みの女の子やん!てか、この子、何で私立修学館中学校の制服を着ているの。しかもバッチは月と同じ2年生。
「姫様、西宮家に引っ越しのご挨拶をと思いまして。こちらが我が主、ヘレン・M・リトル様にございます。姫様、ご挨拶を」
「ふーん。庶民の家はこうなっておるのか。何と狭いことか。チープで下品なテーブルセットだな。シャンデリア位ないのか」
ヘレン・M・リトルは名のることなく物珍しそうにリビングダイニングを眺めて回る。
「姫様、日本の家庭では靴をお脱ぎください」
「気にするな!ヤナイ。ところで調理場が丸見えなのはどう言うことだ。コックや使用人は何処に隠れるのじゃ」
「一般的な日本の家庭には専属のコックも使用人もおりません」
「はあっ?では誰が料理を作るのじゃ」
「まあ、自分で作るかコンビニでも行って買ってくるかです」
「なんと不憫じゃのう」
「おい、小娘。何をボーっと突っ立っておるのじゃ。ヘレンにお茶を出さんか。ヘレンはアールグレイしかいただかんぞ」
ぐっ、小娘ちゃうし。てか、その制服、同い年じゃん。んで、なんで人んちで上から目線?この、不思議ちゃん。可愛い顔してネジが外れてんねん。
「姫様、お茶はわたくしめに」
「うむ。合い分かった。ヤナイ。ところで、この大量にある白くて丸い物体はなんじゃ」
「それは日本のいちご大福と言うスイーツでございます」
「ほう。日本の甘味か。面白い姿をしておるのう。ぜひ一つ食してみたいものじゃ」
「月様、姫様にお一ついただけますでしょうか」
矢内真司と名乗ったイケメンが頭を下げる。大量にあるのだから問題なし。と言うことで月と二人の訪問者でおやつの時間にすることになった。
「うっ。美味い!これが日本の甘味、いちご大福なるものか。気に入ったぞ。もう一つ頂戴しよう」
「でしょ。金松堂のいちご大福は天下一品。右に並ぶものなし。ぐふふ。この味が分かるなんて。不思議の国のヘレンちゃん、ただものではないでしゅ」
「月様、姫様にはもう少し丁寧なお言葉遣いを・・・」
「気にするでない。不思議の国のヘレン?その呼び名も気に入ったぞよ。月とやら。ご近所同士、これからもよろしく頼むぞ」
ヘレン・M・リトル。相当な不思議ちゃんだけど、根は悪い子じゃなさそう。その上、美少女で桁違いの金持ちの匂いがプンプンするじゃん。ぐへへ。仲良くして置いても損はなし。てか、たかり尽くしてやるのじゃ。
兄貴も瑞菜様も戻ったらびっくりするだろうなー。お向かいの山本さんが急に引っ越して変な外人に入れ替わっているなんて知ったら。面白そうだ。
「その制服、私立修学館中学校だよね。私もなんだ。同じ二年生みたいだし、よろしくね」
「ところで、西宮陽さんと佐々木瑞菜さんは何時頃お戻りになられるのですか?」
「うひょ!兄貴たちをご存じで?」
「はい。『オーシャン パラダイス号』でハワイまでの船旅をご一緒しました」
「それがまた何でお隣に・・・」
「姫様が西宮陽様を王子に任命されましたもので」
「お爺ちゃんの代理として投資を任されたのよ」
えっ、えぇー!兄貴の探していたホイホイと大金を払う金持ちって彼女なの?月と同い年で、不思議ちゃんの。兄貴、瑞菜さんがついていながら何を血迷ったんだ。




