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007 ワイルドじゃないです。単なる事故です

西宮陽にしみや よう視点>


「はい。CM入りまーす」


 ADが全員に声をかける。リビングのテレビには見慣れた彼女のシャンプーのCMが流れ出した。佐々木瑞菜ささき みずなのツヤツヤの黒髪が、やわらかな風を受けてふわりとなびいた。美しい。その彼女が目の前にいる現実。ありえない光景。


「いやー。良いカットがとれたよ。西宮陽にしみや ようくん!えっと、私は番組プロデューサーの三浦みうらと申します」


 カメラの後ろにいた髭の紳士が、いかにも高級そうなジャケットのポケットから名刺を取り出して僕に手渡した。


「食事のシーンは長くなるのでカットして、CM、開けたら次はいよいよ告白シーンを頼むよ。キミならいい絵がとれそうだ」


「あのう・・・。今一つ、展開が・・・」


 僕は狼狽せざるを得ない。


「ちっと、兄貴。あっち行こ!」


 妹の西宮月にしみや つきが僕を押して廊下に出た。階段の下で、妹は手を合わせた。


「お願い。兄貴。ボクの一生のお願い。佐々木瑞菜に好きって言って!」


「えっ!」


 全国放送のテレビでか?嘘だろう。国民的無敵美少女の佐々木瑞菜にか。この僕が。


「兄貴なら大丈夫。高1の時にボクシングバンタム級、現、世界チャンピオン、八重橋元気やえばし げんき先輩のあごを一発のパンチで砕いた兄貴だもん」


「ばっ、ばか。大きな声を出すな!僕の黒歴史が、これ以上広まったらどうするんだ。中等部とは言え、同じ学校に通っているお前だってどうなるか」


 僕はあわてて妹の口を手でふさいだ。ふり向くとそこに佐々木瑞菜が立っていた。


「あのー。今のは聞いてないですよね」


「はい。しっかりと聞きました」


「内緒にしてください」


「西宮陽くんって、見た目、草食系のイケメン男子かと思いましたが、意外とワイルドなんですね」


「ワイルドじゃないです。単なる事故です」


「ふふっ。興味が湧きますね」


「えっ」


「運命の出会いだから」


「はい?」


「楽しくなりそう」


 ADが廊下を駆けてくる。


「はーい。もう直ぐCM、開けます。準備してください」


「いこっ。西宮陽くん」


 佐々木瑞菜はシャンプーのCMのように振り返った。長く伸びた髪が僕の鼻の前を横切っていく。甘酸っぱいベリーの香りがした。彼女は僕の手を引いて廊下を駆け出した。

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