065 この人には冗談が通じない。
<森崎弥生視点>
西宮陽くんと二人、星々に彩られた海を見つめる。潮風が冷たく感じ始めた時だった。
ヒューン。パチ、パチ、パチ。ヒューン、ヒューン。パチ、パチ、パチ。
なにやら、かわいらしい閃光が頭上を飛び越えて、海面で爆ぜた。ふり向くと八重橋元気先輩と佐々木瑞菜さん、西宮月ちゃん、そして高校生の制服に身を包んだ宮本京社長が立っていた。私と陽くんを残して買い出しに出かけた面々だ。
「遅くなってごめん!東京と違って花火を売っているスーパーとか近くに無くて」
「もう、ちゃんと調べない元気のせいだかんな。今どきガラケーなんて信じらんない」
「驚いた。月ちゃん。もう、元気さんを呼び捨てなんですね」
「ふふふ。思春期少年少女!長過ぎた青春に決着は付いたか」
宮本社長、相変わらず口が悪いと言うかデリカシーの欠片もない。まったく、この人は異次元の世界の住人だ。どうせこの人が、つまらない画策をした首謀者に違いない。でもこの変態のおかげて気持ちに踏ん切りがついた。もう、陽くんに対する思いでグジグジすることは無いだろう。
私たちは童心に戻って元気先輩、セレクトの花火を楽しんだ。っと言っても、まだまだ子供なのだが。一人のオッサンを除いてだけど。花火に照らし出される宮本社長のすっぴんフェイスはヘタに化粧している時よりもさらに艶めかしい。どんなエステに通ったらこんなことになるのか。この社長のミステリアスは私の武器になる。
陽くんの動きが、まだまだぎこちない。本当に手がかかる。このヘタレを癒せるのは瑞菜さんしかいないか。
「瑞菜さん。明日はいよいよご両親と陽くんとのご対面だね。国民的無敵美少女を奪われたんだから、きっと怒り心頭でしょうね」
「そんなことないと思いますが」
「親なんて、みんな、そんなものよ。特に男親は大変よ!陽くんが会社の立ち上げの件で私の家に来た時、勘違いした父の狼狽ぶりったら。後で聞いたら陽くんをぶっ倒す覚悟だったらしいわよ」
たっぷりと陽くんの不安に油を注ぐ。ついでに、陽くんにバレないように瑞菜さんにウインクした。
「そうなんですか!どうしましょう。私のお父さん、サラリーマンで普段は大人しいけど、現役の柔道三段でした」
「えっ。そんなこと一言も聞いてませんけど・・・」
ヘタレな陽くん、急にオロオロしだした。ぎこちない動きに比べたら一歩前進なのね。瑞菜さんは陽くんを奮い立たせるツボを押さえている。
「やっぱり会うのを止めますか?」
陽くんも陽くんだけど、追い込む瑞菜さんも瑞菜さんだ。そして、それをつまみに盛り上がるギャラリー。なんだかこの仲間たちって楽しい。
「何々、異種格闘戦か。ボクシングのプロは禁止されているけど、陽くんはアマですらない。この際、俺様の力を見よ!って感じで世界チャンピオンのあごを砕いたパンチをお見舞いしてやりな」
「兄貴!柔道三段、敵に不足なし。娘は俺のものだー。がはは。っていいとこ見せてみなよ」
「決めたわ。弥生ちゃん!ラウンドガールの衣装を用意して」
「・・・」
宮本社長のこの一言で、みんなが冷静にならざるおえない。いくらなんでも恐ろしすぎる。全員が社長を見つめる。モデル張りのシュっとしたスタイルに端正な美貌。髭の剃り跡はおろか、制服の短いスカートから伸びる生足にはムダ毛一つない。清楚であるはずの刺繍入りの濃紺のハイソックスを、ここまでエロく履きこなすのは社長しかいない。完璧すぎる32歳って、男なんですよね。宮本社長!
「ごめんなさい、社長。今のは陽くんの気持ちを奮わせるための嘘でした」
瑞菜さんがシュンとなって頭を下げた。私も思わず頭を下げる。宮本社長、この人には冗談が通じない。




