057 陽くん、社長は化け物でした。
<佐々木瑞菜視点>
「陽くん!開けて。ママ、手がふさがっているのよ」
玄関から宮本京社長の声が聞こえてきました。ママって言いました!何かがおかしいです。警戒警報レベルの危険を感じます。西宮陽くん!気をつけて。陽くんが手を伸ばして、恐るおそる玄関ドアのロックを外します。
バン、ブワッ。ブン、カシン!
ドアが引かれて、大きな影が玄関に飛び込んできます。影は野獣のような猛スピードでドアを閉めたかと思うと、すかさずロックを掛けます。玄関で待ち構えていた私たちは、驚きのあまり息を飲みました。
「んぎゃ!」
ダッ、ダダダ。
西宮月ちゃんが、狐に飛びつかれたウサギさながら廊下の奥へと脱兎のごとく消え去りました。気まずい沈黙が続きます。陽くんだけでなく、森崎弥生ちゃんも、八重橋元気さんも石化してしまっています。私はやっとの思いで声を振り絞りました。
「しゃ、社長?」
宝塚の男役を思わせる長身の美形女子がタイトスーツに身を包んで立っています。短めのスカートからのぞくガーターベルト、凶器を思わせるピンヒール。そこまでは威圧感たっぷりの完璧なビジネスウーマン。
でも、右手には食材でパンパンに膨れ上がったスーパーの巨大なレジ袋。長ネギと季節外れの大根が納まりきらずに顔をのぞかせています。左手にはトイレットペーパーとティッシュボックスの御徳用パック!極めつけはフリルの並んだ白いエプロン。全く馴染んでいません。明らかにと言うか、怖いくらい不自然で異様な姿です。
「社長!どうしたんですか」
「瑞菜さん。外がどんなことになっているか知らないから、そんなことが言えるのよ。ものすごいマスコミの数だわ。これで報道ヘリでも飛んでたら、人質立てこもり事件ね。母親のご帰還でも装わなければ、一歩も近づけないわ」
「・・・社長。それでにわか主婦に?かえって目立ちませんでしたか」
「失礼ね。キッて睨んだら、スッて道を開けてくれたわよ」
宮本社長。それは社長の主婦姿が効いたのではなくて、恐ろしかっただけです!って思いましたが、国民的無敵美少女である私でも、口には出せませんでした。社長は、待ち構えていた私たちの顔を、睨みつけるようにして順に眺めていきます。
「キミが西宮陽くんね。成程とぼけた顔をしているけど、イケメンね。話を伺おうじゃないの!」
「ん!」
宮本社長はあ然とするボクシングバンタム級、世界チャンピオン、八重橋元気さんに食材の詰まったレジ袋を押し付けました。トイレットペーパー、ティッシュボックスを順番に持たせます。チャンピオンを召使扱いです。ごめんなさい。元気さん!社長は怖いもの知らずです。
エプロンをシュルッと取り去り、ピンヒールを脱ぎ捨てます。ひらりと玄関に上がると、肩で風を切って廊下を進みます。私たちはロボットのようなぎこちない動きで彼女を追いました。
ごめんなさい!訂正します。陽くん、社長は化け物でした。




