054 陽くんは人を引き付ける力があるって
<西宮陽視点>
夕飯はそうめんにした。外に買い物に出られないのが問題だったが、家にあった野菜で天ぷらを作った。『美味しい料理は人を幸せにする』みんな笑顔だ。気の合う仲間が集まって、ほのぼのとした団らん。それで十分に幸せだ。
不思議な気分だ。当の本人とは全く関係ない世界で、この世の中は動いている。テレビもインターネットもSNSも、僕たちのことを勝手に評論している。他人のことがそんなに面白いのだろうか。
日が落ちて僕たち五人はリビングでくつろいでいた。家の外が騒々しい。多分、マスコミが集まり出しているのだろう。
「これからどうしますかね」
「表には出れそうにないな」
八重橋元気先輩が、玄関の呼び鈴の乾電池を抜きながら答えた。
「ほっとけばいいじゃん!」
妹の西宮月はノーテンキだ。
ドンリン。ドンリン。ドンリン。
僕のスマホが鳴った。
「・・・」
やばい。父、西宮新の名前が表示されている。テレビ電話だ。僕は妹の月に着信画面を見せた。おい。勝手にボタンを押すな!
『陽!面白いことになっているな。フランスのテレビでも報道されているぞ。お前、タレントの佐々木瑞菜と駆け落ちしたんだってな。やるじゃないか!』
「駆け落ちなんてしてません。人聞きの悪いことを言わないでください」
『陽くーん!母さんだよ。陽くんも男を上げたね。ふふふ。国民的無敵美少女なんだってね。会うのが楽しみだわ』
「か、母さんまで」
話がややこしくなりそうだ。母のミーハーさ加減は半端じゃない。妹の月を凌ぐほどだ。
「月だよ!瑞菜様ならここにいるよ」
こういう時だけ妹は素早い。僕のスマホを奪い取ってカメラを瑞菜さんに向けた。瑞菜さんの慌てた顔がまたかわいい。
「始めまして。佐々木瑞菜です。陽くんにはお世話になっております」
『あらま!あなた大変。女神が出たわよ』
母はスマホの向こうで髪を直し始める。父は大げさにのけ反った。父と母は二人並んで画面に並ぶ。
『本当に美人さんだな、陽。世間が騒ぐのもわからんではない。おっと失礼した。佐々木瑞菜さんだね。こちらのテレビでも時々拝見しております。はじめまして、陽の父、西宮新です。で、こっちが陽の母、西宮沙希です』
『陽がいつもお世話になっております』
「月にだって彼氏ができたんだよ。ほら」
妹の月は僕のスマホを八重橋元気先輩に向けた。
「あっ。その八重橋元気です。よろしくお願いします」
『八重橋元気?まさか、ボクシングの世界チャンピオンの、あの八重橋元気か』
「はい」
『これは驚いた。月ちゃん、なんだか良くわからんが楽しそうだな。画面のはじに映ったもう一人の美人は誰かな』
「えっと。高校生社長をしている森崎弥生ちゃんです」
「始めまして。森崎弥生です!陽くんの幼なじみです」
『・・・。聞いたことがあるような名前だな。森崎弥生さんって『Be Mine』の社長さんか』
「はい。そうです」
『フランスで行われた経産省主催のクールジャパン、アニメフェスティバルで話題になっていた森崎弥生さんか。アニメファッション、コスプレデザインの神様の?』
「どうして知っているのですか?」
『フランスの日本大使館に勤めているもので。そりゃあもうアニメ好きのフランス人だけでなく、こちらのファッション界でも大変な話題になっている』
「やっ、弥生ちゃんがフランスで有名人?弥生お姉ちゃん。やったね。月、弥生ちゃんのところでファッションの勉強をしているんだよ」
『驚いた。陽の彼女が佐々木瑞菜さんで、月の彼氏が八重橋元気。それで幼なじみが森崎弥生とは・・・。今を時めく有名人が集まっとる。沙希!信じられるか』
『だから、いつも言っているでしょ。陽くんは人を引き付ける力があるって。西宮家の長男ですよ。あなた』
二人の幸せそうな顔を見て僕は安心した。僕たちも前に進まなければ。




