048 そんなはずはない。ヤツの妹の作戦か?
<八重橋元気視点>
カーン!
ゴングと共に、西宮陽がいきなりジャブの連打をはなってきた。おいおい、こいつそんなポジティブなヤツだったのか?俺は一年前、ヤツがやったようにスウェーイングのテクニックを使って体を前後、左右に揺らしてパンチを避けた。
シュッ。シュッ。シュッ。
陽のパンチが空を切る。ヤツにできることは俺にだってできる。俺はそれを確認したかった。
「キミ!練習用のグローブは試合用と違って重いんだ。そんなにパンチを出したら直ぐにへばるぜ」
「どうでしょう?じぁあ、これはどうです」
西宮陽は、右肩を大きく引いて反動をつけてストレートを打ってくる。速い!俺はグローブを上げて両手で顔をガードした。
バチン。
大きな音と共に腕がしびれる。なんだ!こいつのパンチ。体重がのって重い。だが、しょせん素人、動きが大きすぎてバレバレだ。続けて左か。
バチン。
いいパンチしている。しびれるねー、ほんと。俺が見込んだだけのことはある。今度はこっちの番だ。あごのお返しはさせてもらう。細かいジャブで反撃に出る。
パシッ、パシッ、パシッ。
今回はガードをしっかり上げるんだな。それが正解だ。が、しかし、インターハイレベルならそれでいいが、こっちはプロだ。鍛え方が違うんだよ!俺はジャブでヤツのガードをはじきながら隙間をつくる。いまだ!わずかに空いた隙間に向けて、渾身の右ストレートを叩き込んだ。
俺のパンチが走る。パンチは真っすぐに伸びて、西宮陽のヘッドギアを弾き飛ばした。ヤツのあごをとらえる。終わったな!
何だ?手応えがない。俺のパンチを首を反らしてヘッドギアの厚さ分の動きで避けたのか。
「ストップ」
レフェリーが二人の間に割って入る。西宮陽がニヤリと笑う。おもしろい、こいつ。ワクワクするじゃないか。西宮陽の動体視力と反射神経は本物だ。俺は、やはり素人にあごを砕かれた訳じゃなかったんだ。
『オーっと意外です。西宮陽!チャンピオンの八重橋元気と互角の戦いをしています』
JNH放送の吾妻アナウンサーが興奮しで叫んだ。体育館に集まった観客が湧きたつ。
「いいぞ。兄貴!元気先輩もかっこいい!」
カン、カン、カン、カン。
ゴングが鳴る。ちっ。いいところだったのに。1ラウンド終了か。俺は自分のコーナーに戻った。水を一口飲んで心をしずめる。
んっ?西宮陽の横にいる女の子は。ヤツの妹か。けっこうかわいいな。って何を考えているんだ、俺は。
「陽くん。来ちゃった」
なんだ、あの子。髪が金色でしかも瞳がサファイアブルーの美少女。西宮陽の彼女か?なんかムカつく。男同士の戦いに彼女連れ。なめとんのか。ってかうらやましい。ボクシング、一筋だった俺の高校時代の歴史にない青春の1ページをヤツが持っている。
えっ。相手コーナーから熱い眼差し。西宮陽の妹の視線がへばりつく。活発そうなショートヘア。クリッとした大きな瞳。ド、ストライクの俺好みの美少女。って何をときめいているんだ。そんなはずはない。ヤツの妹の作戦か?




