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004 『持っている』女の子です

<佐々木瑞菜ささき みずな視点>


『初めてキミを見た時の衝撃は今でも忘れない。


あの日から僕はキミのとりこだ。


キミのほほ笑み、キミの言葉、キミの歌声、キミの姿。


キミの全てが僕の魂をふるわせる。


あぁ、なんでこの世の中にはこんなつまらない言葉しかないのだろう。


僕の思いをキミに伝える言葉が欲しい。


どんな芸術も、どんな音楽も、人類の英知さえも霞んで見える。


キミに会いたい。


キミをそばで感じていたい。


キミが僕のすべてならいいのに。


キミのために僕の人生はあると思う。


世界が滅んだとしても、僕はキミを永遠に愛す。


西宮陽にしみや ようより』


 私、佐々木瑞菜ささき みずなは、生まれて初めて手にした自分宛のラブレターを読み終えました。


 ふふっ。きれいな字。女の子みたい。この男子にしよう。


 私の頭の中に勝手なイメージが広がっていきます。私に送られた数十万通ものラブレター山の中から最初につまみ上げた一枚。


 胸にあててみます。心臓がトクトクと鼓動してます。


 シンプルな白い便せんにミントの香りがつけてありました。さわやかな恋の香り。素敵な一枚です。運命を感じさせる一枚のラブレター。


「マネージャー。この男子に決めました」


 私は決心しました。きっとまだ見ぬ彼が私を連れ出してくれます。芸能界もファンもどうだっていい。私は演技なんかじゃない本物の恋がしたいのです。


「えっ。まだ一枚目だけど。こんなにたくさんあるんだから、もっと慎重に選んだらどう」


 マネージャーは目を丸くして驚きの表情を浮かべます。


「いいんです。運命だから」


 私はきっぱりと言い放ちました。


「こんなにいっぱいあるのに、もったいない」


 彼女はラブレターの山を見つめてため息をつきました。でも彼女は、私が一度決めたら譲らないことを知っています。私は運も才能も美しさも兼ね備えた選ばれた女の子。私の直感にくるいはありません。


「私は『持っている』女の子です」


 手に持った一枚を彼女に指し示しました。


「そっ、そうね。なら興信所に調べさせとくわね」


 彼女は私の決意に負けました。


「はい。お願いします」


 私は満足そうに頭を下げました。


 明日は何を着ていきましょうか。初めて会う彼、西宮陽くんはどんな洋服が趣味なんでしょう?そうです、この便せんのように白いワンピースにしましょう。彼、次第でどんな色にも染まります。ミントの香りのお礼にベリーの香りをまとっていきます。甘酸っぱい初恋の香りです。


 明日がくるのが待ち遠しいです。今晩は眠れるでしょうか。オーディションの時も、デビューの時もたいして緊張しませんでした。なのに今は心臓がキューとなるくらい胸が苦しいです。顔がほてります。これが恋のエネルギーなんです。


「瑞菜さん。大丈夫?顔が赤いわよ。熱でもあるんじゃない。なんなら、明日の特番をキャンセルしてもいいのよ」


 それだけはダメ。絶対にダメです。運命の彼に会いたい。


「大丈夫です。なんか興奮しますね。マネージャーさんも初恋の時はドキドキしました?」


「さぁ、どうだったかしら。人の気持ちなんて移ろうものなの。いいわね。あなたはアイドルなのよ。相手がブサメンのチビ、デブ、ハゲだったとしても夢を壊さないように断るのよ。わかったわね」


 マネージャーに住所と連絡先が書かれた封筒だけを手渡します。中身の手紙は私のもの。一生の宝物です。彼女は残りのラブレターを処分するようにアシスタントに告げて駆けだしました。


「プロデューサー。明日のロケ先が決まりました。これで最高視聴率を狙ってください」


 ふふっ。仕事熱心ですね。断る?どうでしょう。いつだって私の直感はハズレたことがありません。私は女神なんですから。

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