037 私の妄想は現実のものになっていく
<森崎弥生視点>
私、森崎弥生は自分のことが嫌いだ。大嫌いだ。私の西宮陽くんに対する愛は重すぎる。だから私は自分の想いに押しつぶされそうになる。やっちゃいけないことだと分かっていても、陽くんへの気持ちがいつも暴走してしまう。
今日のお昼ご飯はイタリアンのフルコース。全て陽くんの手作りだった。とーっても美味しくて、食べ終わるころには感動してちょっひり涙が出た。私は執事の姿だったからお手伝いをかって出た。でも陽くんは衣装が汚れるからと結局、何からなにまで全て自分でやってしまった。陽くんは優しすぎる。そして鈍感だ。
昼食を終えて、四人ともリビングでくつろいでいる。チャンスだ。そろそろ言わなきゃ。このままだと私、森崎弥生は腐った女になってしまう。新しい自分を見つけるために踏み出さねば。私はとびっきりの笑顔をつくって言った。
「ジャジャーン。皆様に重大発表があります!私こと森崎弥生は一学期を持ちまして私立修学館高校を退学します。勝手に卒業するんです」
陽くんも西宮月ちゃんも佐々木瑞菜さんもポカンと口を開けたままフリーズした。この時の三人の顔を私は一生忘れないだろう。してやったりだ。
「私、森崎弥生は高校を中退して、日本のサブカルチャーを革新するためにファッションデザイン会社を設立します」
私は高らかと宣言した。気持ちいいかもしれない。
「・・・。ちょっと待ってください。いきなり過ぎます。そう言うことは、きちんと人生設計した上で。専門学校とか大学とかで経験を積むとか。それに生徒会風紀委員長の仕事とか、次期生徒会長とかはどうするのですか」
いつも冷静な陽くんが慌てふためく姿は面白い。陽くんの心はやっぱりヘタレだ。
「弥生さん。ちゃんと考えてのことですか?」
さすがは社会人の大先輩。無敵美少女、佐々木瑞菜は動じない。
「もちろんです。作戦はあります。資金もお客も集めました」
「むひょ。弥生ちゃん、かっこいい!」
月ちゃんが胸に飛び込んて来たが、かまってられない。なでなでして黙らせつつ先に進もう。
「資金ってどうやって集めたんですか。会社を作るならそれなりのお金が必要ですよ。バイトやお小遣いで何とかなるようなものじゃないです」
陽くんの表情は打って変わって真剣だ。
「陽くんが考えてくれた『普通に街で着られるコスプレ衣装』を企画書にまとめて、クラウドファンディングの会社を使って支援金を募りました」
私は衣装袋の中からタブレットPCを取り出して、クラウドファンディングの集計画面を表示した。
「むによょ。一、十、百、千、万、十万、百万、一千万?さっ、三千万円。どひょー。弥生おねぇたま」
「月ちゃん。これはあげられないのよ。よだれをふいてね」
「僕は将来のつもりで言ったわけで」
陽くんは金額を見ておどおどし始める。その姿が面白い。
「衣装の製作工場もアニメや漫画のタイアップ先もコミケの仲間がネットを使って見つけています」
「・・・」
陽くん、撃沈。もともとは陽くんが考え出したアイデアでしょ!陽くんは天才だけどヘタレ。私は変態だけど行動力なら誰にも負けない。
「今日、用意したコスプレ衣装はその第一弾です」
私は自分の着ている執事のコスプレ衣装から装飾用の飾りを取り外してみせた。
「すごい。普通にかっこいいスーツになりました。これなら街で着て歩けます」
佐々木瑞菜さんの驚きようが、たまらなく嬉しい。だって、国民的無敵美少女アイドルのコメントですよ。こんな力強い言葉はない。
「瑞菜さんのドレスはスリットの所をこうすると。ほら、タイトスカートに。上着を羽織れば普通にオシャレでしょ」
「魔法みたい。面白い」
「月ちゃんのドレスはウエストを緩めて。このひもを引くと、ほら。スカートのたけと広がりを調節できるの。フォーマルからカジュアルまで自由自在。どうかしら」
「うひょ。が、がわいい」
こうして私の妄想は現実のものになっていく。




