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妹のラブレターを代筆したら、無敵美少女アイドルと同居することになった。  作者: 坂井ひいろ
Season1

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36/99

036 お待たせしました。お兄様

西宮陽にしみや よう視点>


 今日のランチはイタリアンのフルコース。五種の前菜盛り合わせに始まり、ペンネを使ったクリームパスタとシンプルなマルゲリータピッツァのセット。メインの肉料理は和牛頬肉の赤ワイン煮込み。ドルチェは苺の手作りジェラートで、しめはエスプレッソだ。新鮮な食材がそろっており準備も調味料も抜かりがない。


 僕、西宮陽にしみや ようは鼻歌を歌いながら料理を開始した。料理は思いきりと手際が命。もたもたしているとせっかくの材料が死んでしまう。この時ばかりはヘタレではいられない。『美味しい料理は人を幸せにする』どんな時でも。だから僕は手を抜かない。


 包丁がまな板を叩く音が心地いい。鍋がコトコトと鳴り、ソースの香りが鼻孔に広がる。よし、良い感じた。意外にも三人の少女に邪魔されなかったのが功を奏した。僕は次々と料理の仕上げにかかった。ダイニングテーブルに四人分の食器とカトラリー、グラスを並べていく。食前酒は赤ワインと行きたいところだが、四人とも未成年。手作りのレモネードを準備した。


「お昼の準備ができたよ」


 同居人である国民的無敵美少女アイドル、佐々木瑞菜ささき みずなさんの部屋から、妹の西宮月にしみや つきと幼なじみの森崎弥生もりさき やよいさんのヒソヒソ声が微かに聞こえてくる。


「ちょっと、待って。直ぐに三人で行くから。よっ、陽くんは先にリビングに戻ってて!」


 弥生さんの慌てた声が不安をあおる。また良からぬことを考えているのかもしれない。しぶしぶ、ダイニングへとつながるリビングへと引き返した。ソファーに座って三人を待つ。


「ジャジャーン。今日の給仕は私めにお任せください」


 執事(しつじ)姿の弥生さんがドアから飛び出してきた。


「・・・?」


「ちょっと。陽くん!何か言ってよ。不安になるじゃない」


 ビックリした。遊びに来るときは、少女らしさをこれでもかと強調したスタイルの弥生さんが、キリリとした男装をまとっている。意外ではあるが元が美少女なので何でも似合う。これがちょっと前まで、色気のない赤フチメガネのチョー堅物真面目女子だったとはとても信じられない。心が変態女子で無くなれば誰もが彼女に惚れてしまうだろう。


「いや。ちょっとばかり面食らってしまって。良く似合っていますよ」


「お世辞で言ってない?」


「いえ、本心です」


「よし、では、ご褒美を授けよう」


 弥生さんがドアの奥に手を伸ばす。腕を引いて現れたのは・・・。


「瑞菜さん?」


「はい」


 大胆に開いたスカートのスリットから艶めかしい生足がのぞく。まだお昼前だと言うのに。これはもはや犯罪だ。美しすぎる。何時ものかわいらしさから妖艶な美女に。ワイシャツに腕まくり、洗いざらしのジーパン姿の上に黒いエプロン。カジュアルな僕の姿とは全くつり合わない。


 二人が並んでリビングに入ってきた。よく見るととても凝った衣装だ。コスプレショップで売られている生地とは物が違う。縫製も細やかで、職人技を感じさせる。


「どう。全て私の手作りよ」


「弥生さんなら、今すぐにデザイナーになれます。弥生さんの才能なら、僕の料理より人を幸せにできるんじゃないかな。正直、敗者の気分です」


「陽くん、め過ぎ。調子に乗っちゃうじゃない」


「良いんじゃないですか。乗っても。瑞菜さんもそう思いませんか」


「はい。この服、見た目だけじゃなくて、とっても着心地が良い上に動きやすいんですよ」


「これ以上、褒められるとどうにかなってしまいそう。本日のメインディッシュがまだ残ったままなのに。いらっしゃい」


 ドアの前に清楚なお嬢様が現れた。深くお辞儀をしてから顔を上げる。


「お待たせしました。お兄様」


「あぅっ」


 情けない声をあげながら、僕は思わずソファーからずり落ちた。言葉の言い回しまで大人びている。森崎弥生さん、貴方の正体は魔法使いですか?妹の姿に魅入られた兄をつくってどうするんですか。妹の美しさは罪では許されない。

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