023 では、瑞菜さん一言
<西宮陽視点>
とうとう私立修学館、中高合同体育祭の当日を迎えてしまった。空は青く晴れ渡り、少し乾燥しているがグラウンドのコンディションも悪くない。校庭に植えられた桜の木は、重々しいほど青葉をしげらせて暑苦しい。咲き誇っている桜の木は美しいが、それ以外の時はあまり好きになれない。
僕、西宮陽は本日のメインイベントの一つ、クラス対抗リレーの列に並んでいた。1クラス3チーム、1学年5クラスで15チームが一斉にバトンをつなぐ。各チーム6人なので、まあ、早い話がクラスの男子全員が参加する競技だ。
もちろんクラス間の競争があるのでチーム編成は平等ではない。僕のチームは最強チームからあふれた、文科系クラブの出身ばかりを集めた最弱チーム。クラスの誰一人として期待していない。気楽なレースのはずだった。
ところが僕のクラスの幼なじみ、森崎弥生さんは、こともあろうかアイドル、佐々木瑞菜さんとの同居の秘密をたてに優勝を求めてきた。このヘタレの僕にだ。
最弱チームで優勝か。かなり無理がある。と言うか普通はあり得ない。僕は2年3組の応援席を見た。森崎弥生のサファイアの瞳が睨みを利かしている。栗色の髪の美少女だから離れていても直ぐに分かった。
あっ。妹のやつ何しているんだ。
私立修学館中学校3年の妹、西宮月が弥生さんを応援席から連れ出した。二人はゴール手前に設置された来賓用の観客席に向かって歩いていく。
えっ。あの庶民離れしたスラリとしたスタイルは。
佐々木瑞菜さんが観客席に設置されたパイプ椅子にちょこんと座っていた。黒い帽子にサングラス。見るからにあやしすぎる。注目してと言わんばかりだ。大会委員である妹はともかく、サファイアブルーの瞳を持つ美少女が向かったら、ばれるに決まっている。
ほら、言わんこっちゃない。
観客席からどよめきがわき起こる。どうすんだよ。
『えー。大会事務局より驚きのお知らせがあります!なな、なんと当校の生徒にご友人がおられるとのことで、あの、国民的無敵美少女アイドル。佐々木瑞菜さんが観客席にいらっしゃっております』
くっ。妹の声だ。いつの間にマイクを。
彼女の周りに大会委員の人間バリケードが築かれた。瑞菜さんは、帽子とサングラスを外して立ち上がると深々と頭を下げた。横にいる弥生さんも友人のふりをして会釈した。
『では、瑞菜さん一言』
妹が瑞菜さんにマイクを向ける。
『お騒がせして申し訳ありません。ちょっとだけ、私に学園ライフを味合わせてください。よろしくお願いします。みなさん、頑張ってください!』
学校中が割れんばかり歓声と拍手に包まれた。
してやられた。こんなことを計画できるのは妹の月に違いない。僕に隠れてアイドルのスケジュールを調整するとは。おかげで走りにくくなった。妹はともかく瑞菜さんも、弥生さんも二人とも悪乗りが過ぎる。




