020 魔女みたいでしょ
<佐々木瑞菜視点>
私、佐々木瑞菜は西宮家で西宮陽くんのアルバムを見ています。スタジオやらロケなど朝から晩まで働きづくめ。自分で言うのもなんですが、人気アイドルの仕事は想像を絶する過酷さです。でも、ここにいると普通の女子高生に戻った気がします。いやされます。
森崎弥生さんはひねくれ者です。その上、頑固者。そして恥ずかしがり屋さん。でもそこがかわいいんです。西宮陽くんに対する一途な思い。同じ女の子として良くわかります。正直うらやましいです。だから私は同情しません。彼女の気持ちに負けたりしません。私が初めて見つけた恋ですから。
「ちっちゃい時の陽くんってやっぱりかわいい。あっこっちのちっちゃいの、これ、私」
「えっ!面影がないんですけど」
弥生さんが指で示したのは、おかっぱ頭の赤フチメガネの女の子でした。
「うん。お爺ちゃんがフランス人で。私、クォーターなんです。お母さんがイジメられるんじゃないかって心配して。髪を黒く染めたんだよね」
「弥生お姉さんってクォーターなんだ。西洋ドールみたいでかわいい。あーあ、私もお爺ちゃんとかお祖母ちゃんが外人だったらなー」
弥生さんの栗色の髪はとても美しい。日の光を受けると黄金色に輝きます。この美しさを隠して生きてきたなんて。でも、日本人は他人と違うことを極端に嫌います。それが美しさでも、攻撃の対象にされてしまいます。私はそれを痛いほど知っています。
「私はきれいだと思います。この栗色の髪。染めたり、脱色したりしたのとは全然違います。芸能界だってこんなきれいな髪の子は見たことないと思います。自慢していいんじゃないでしょうか」
弥生さんはうつ向いてプルプルと首を振り出しました。栗色の髪は広がると金色になるんです。なんて素敵なんでしょう。
彼女は思い切ったかのように口を開きました。
「このメガネも。だてなんだよ。カラコンを隠すための」
弥生さんがポケットからレンズケースを取り出します。下を向いて手を添えながら目をぱちぱちして、コンタクトを取り外しました。彼女は顔を上げて閉じた目をゆっくりと見開きます。
青く吸い込まれるような瞳。欧米人のようなボンヤリして緑がかった青とは全然違います。濃いハッキリしたサファイアブルー。宝石そのものです。
「ねっ。気持ち悪いでしょ。魔女みたいでしょ」
彼女の目からポタポタと涙が零れ落ちます。まるで天使の滴です。こんなに美しい瞳をした人間がいるでしょうか。私は感動のあまり目頭が熱くなりました。
「そんなことないです。とってもきれいです」
「隔世遺伝って言うみたい。見た目、日本人の両親に連れられて歩く私は、周りから化け物あつかいだった」
「違います。それは弥生さんの美しさに嫉妬しただけなんです」
私は森崎弥生を抱きしめずにはいられませんでした。ひねくれ者で頑固者。生真面目で努力家。私の恋のライバル。森崎弥生の美貌は人知を超えていました。




