012 どちら様ですか?
<西宮陽視点>
私立修学館高校2年3組の教室は、昨日の佐々木瑞菜の逆告白番組の話題で朝から盛り上がっていた。それはそうだろう。視聴率55パーセントと言えば国民の半数以上、同年代ならほとんど観たと言っても過言でない。
僕こと西宮陽は寝不足だった。あれから妹の月と佐々木瑞菜のはしゃぎようと言ったら、修学旅行の女子と変わらなかった。瑞菜さんがあんなに嬉しそうにしている姿はテレビでも見たことがなくて、なんだかあったかい気持ちになった。
彼女なら癒し系タレントに転身しても、人気になること間違いなし。マルチな才能は天が与えたものだ。もっとも、お風呂上がりの二人が無邪気にじゃれ合う姿は、僕の寝不足の原因となったのだが。僕はあくびをひとつしてから机の上に置いたカバンに顔を埋めた。
「おはようございます!」
「・・・?どちら様ですか?」
目の前につぶらな瞳の美少女がたたずんでいた。少し茶色がかったストレートの髪が朝の日差しを受けて金色に輝いている。大きくせり出した胸を強調するかのように腰のくびれた制服は、明らかに改造されている。膝上十センチに引き上げられたスカートも校則違反ギリギリだ。
「転校生?」
「・・・」
「もう直ぐ、風紀委員長の森崎さんが登校してくるから気をつけた方が・・・」
「西宮くん」
「えっ!」
その声、うそでしょ。そんなバカな。まどろんでいた意識が急に鮮明になっていく。
「森崎弥生さん?」
「ようやく気付いたみたいね」
「あのう。どうしちゃんですか。その髪の毛?」
「地毛よ!目立つのが嫌だから今まで黒く染めていたの」
「でっ、でもメガネが!」
「あれはだてメガネ!度なんて入っていないわ」
彼女はキリリとした表情で僕を見つめる。もう一人のクールビューティーが僕の前にいた。いや、でも。その制服は生徒会風紀委員長的にルール違反でしょう。
「その制服は?」
「校則ギリギリね。ミリ単位で調整したわ」
「なっ、何のために」
「佐々木瑞菜に宣戦布告する為よ!」
「えぇー。まさか昨日の・・・」
「えぇ、もちろん拝見したわ。西宮陽くん!私にも西宮くんお手製の煮込みハンバーグをご馳走していただけるかしら」
バレている。完全に。ややこしいことになりそうだ。学校中にばらされたら1年の二の舞になる。僕の求めた穏やかな暮らし。頭の中がパニックを起こしている。なんてことだ。




