011 家族?お姉さん!
<西宮月視点>
月の目の前で無敵美少女アイドルこと、佐々木瑞菜が兄貴の作った煮込みハンバーグを食べている。昨日の月なら夢にも思わない光景。彼女が我が家にいるなんてありえない。こんなことが現実に起こるなんて誰が想像できただろう。
「美味しいです!」
佐々木瑞菜の笑顔がまぶしすぎる。真向いに座る兄貴は黙ったままだ。まったくもう、ヘタレ感が全開じゃないか。困ったものだ。お見合いの席じゃあるまいし。もっとも、お見合いなんて実際は知らないが。多分こんな感じだろう。
「うん。兄貴の手料理はとにかく最高だよ」
「そうなんですか。月ちゃんはいつもこんな料理を食べられるなんて幸せですね」
瑞菜様が手を止めてスプーンを見つめる。
「手料理ですかぁー。羨ましいですね、私はいつもお弁当ですから。中1でデビューして以来、ずっと一人暮らしなんです。あったかい手料理が待っている家庭って、なんか憧れです」
おおー。瑞菜様の寂しそうな顔。胸が苦しい。兄貴、何とか言えよ。彼女を救えるのは今この世界で兄貴だけなんだから。ボクは瑞菜様に悟られないように、横に座る兄貴の脚を蹴った。
「こ、こんな料理で良ければ、いつでも遊びに来てください」
兄貴、よく言った!が、しかし、声の上ずり方がなんとも情けない。緊張する気持ちは分かるが。兄貴は佐々木瑞菜の彼氏になったんじゃなかったのか。
あれ、兄貴はともかく瑞菜様までモジモジしだした。二人とも顔が真っ赤だ。このウブィ感じはなに!月が一肌脱ぐしかないか。
「遊びに来るなんて大変でしょ!瑞菜さんは忙しそうだし、二人は恋人同士なんだから、いっそ、一緒に住んだら。ほら、部屋なら空いているし」
「えっ!」
二人が同時に声を発する。息、ぴったりじゃん!行ける。今なら無敵美少女アイドルを我が家にゲットできる。ウッホー。二人がゆでだこ状態の内にことを進めるのだ。西宮月、発進します!
「一人暮らしなんて寂しいよ!お金ももったいないし。三人で暮らせたら家族が増えて楽しいと思うな。二人っきりだと世間的に問題だけど月もいるし。まあ、兄貴はヘタレだから妙なことが起きるなんて心配はもともとないんだけど。月、お姉さんがずっと欲しかったんだ。ねぇ、瑞菜お姉さん!」
「家族?お姉さん!」
くぉっ!瑞菜様が顔をお上げになった。女神様復活!あと一押しだ。その前にヘタレ兄貴を何とかせねば。兄貴ってイケメンのくせに案外、生真面目なんだよね。そこがいいところなんだけど。
「兄貴!言ってたじゃない。自分の料理の味を理解してくれる人が欲しいって。月の子供の舌ではなーって」
「・・・」
うふっ。兄貴が反応した。もう一押しだ!
「ねぇ、瑞菜お姉さん!兄貴の料理、美味しいでしょ。『美味しい料理は人を幸せにする』ってのが、兄貴の口癖なんだよ」
「はい。とっても美味しいです!」
おふっ。でたーーーー!天使の笑顔。この笑顔に勝てる人間なんていない。無敵スマイル。体が溶けてしまいそうだ。
「じゃあ決まりだね、兄貴!」
「いいんですか。私なんかがお邪魔しても」
わうっ。無敵美少女、必殺の上目遣いお願いモード。
「瑞菜さんがそれで良ければ」
「はい。お願いします」
兄貴、よくぞ言った。瑞菜様、ありがとう。見つめ合う二人。完璧だ!瑞菜様と一緒に暮らせる。
「やった!お姉さんができた。うー。嬉しい。夜も遅いし、善は急げ。引っ越しなんて後にして今日から泊って!女の子同士、一緒にお風呂に入ろうよ。んで、一緒に寝よ。兄貴のこと何でも教えてあげる。瑞菜お姉さん」
「ふふっ。月ちゃんてかわいいですね!」
「月、後でゲストルームのベッドに布団をしいとく。いいよね、兄貴!」
「うっ、うん」
「私も手伝います。居候ですから」




