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001 知ってるくせに!

西宮陽にしみや よう視点>


 僕こと西宮陽にしみや ようは高2の春を迎えた。あれほど賑やかに咲き誇った桜の花も散り、学校生活も落ち着きを取り戻しつつある。高1の春にちょっとした事件を起こしたせいで、悪い意味で有名になった。おかげで、僕が求めていた平穏な生活とは程遠い日常を送る羽目になってしまった。


 2年生に進級して、クラス替えも行われて事件の噂も薄らいでいる。のんびりした学園ライフは、眠気をさそうが心地いいものだ。木々に芽吹いた若葉の香りが安らぎを与えてくれる。なにか良いことが起きそうな予感がする。いつの間にか僕は、窓辺の席で机に突っ伏してまどろんでいた。


「西宮陽。起きなさいよ!授業はとっくに終わっているんだから」


「んっ」


 クラスメイトの女子が机の前に仁王立ちしていた。僕は目をこすりながら彼女を見上げる。


 彼女の名前は森崎弥生もりさき やよい。1年生の頃から同じクラスで、今年、生徒会風紀委員長に抜擢された努力家だ。次期生徒会長を狙っていると、うわさされている。顔は整っているがチョー堅物真面目女子で、赤フチメガネがトレードマークの幼なじみだ。かわいさの欠片もない。正直うざいが彼女のライフワークの一つに、事件を起こした僕を更生させると言うテーマがあるらしい。


「さっさと部活に行くか、帰宅しなさい」


「ごめん。昨日、遅くまでラブレターを書いていて。もう少し寝させてください」


 僕はあくびを一つして両腕の中に再び顔を埋めようとした。


「ラ、ラブレターって?」


 森崎弥生は顔を赤くして動揺している。


 あっ。あれ?僕はなにを言っているんだ。眠くてつい口走ってしまった。


「森崎さん宛じゃないから、安心してください」


「えっ」


 なんでここで、ガッカリそうな顔をするのだろう?まあ、そうか、女子ってこの手の話題に敏感だもんな。


「じゃあ、だれなの?答えなさいよ。いやらしい。ことと次第では、今週の風紀委員の合同会議の議題にするわよ」


 今度は、ほほをフグのように膨らませて怒り出す。どうして女の子の気持ちは、こう、ころころと目まぐるしく変化するのだろうか。正直、ついていけない。ちょっと口答えしてみる。


「そんな。いくらなんでも風紀委員の横暴ですよ」


「横暴じゃないわよ。西宮くんはブラックリストのトップランクに記載される最要注意人物なんだから。幼なじみとして、ほっておけないじゃない」


 そんなリストがあるなら見せてほしい。今度は保護者ポジションですか。彼女を口で言い負かすことのできる人間は、この学校にはいない。素行の悪い3年男子もタジタジにするほどだ。


「僕のじゃないです。妹のつきの代筆です」


「よかった!って良くないわよ。西宮くんの妹のつきちゃんって、中3じゃなかったっけ。いくら受験のない中高一貫校だからって、色恋沙汰は早すぎるわ」


『色恋沙汰』ってまた古風な言い方だ。そんなことないでしょ。中学生だって恋の一つ二つはするんじゃないかな。普通は。


「森崎さんは中学生の頃に好きな人とか、いなかったんですか?」


 ありゃ。こんどは顔が赤くなった。耳まで真っ赤だ。


「しっ、知ってるくせに!」


 えぇー。うーむ。全然、分からない。いないと言う意味か?それとも僕の数少ない知り合いか?これだから女子と話すのは苦手だ。


 僕は立ち上がって、机の中のものをカバンにしまった。頭を上げた瞬間、彼女の顔がすぐ目の前にあった。


 なっんだ。近いんだよ。ビックリした。唇がニアミスをおこすところだった。


 僕は思わず、体を一歩後ろに引いた。彼女が眼鏡越しに、ジーっと僕の瞳の奥を覗き込んでくる。窓から差し込んでる夕日が彼女を照らし、美しいと言えなくもない。性格は外見とは関係ないことを僕は知っている。

●初めてお読みいただいている方。ありがとうございます!

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 このお話は完結しております、安心してお読みいただけます。

 それでは、最後までごゆっくりとお楽しみください。


 坂井ひいろ

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