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魔界にさらわれて魔王の娘と結婚する羽目になった話

作者: 鳩胸 ぽっぽ

 「本気ですかリュシア様。人間と結婚して魔界に招き入れるなど」

 「本気の本気じゃ。すでに父上の許可ももらっておる。準備は万端じゃ!」

 「で、ですがこの者の魔力では魔界に入ると瘴気に侵されて気が狂うのでは」

 「安心せい。妾の加護がある。それと、魔人化させるので大丈夫じゃ」


 「……昔受けた恩義。妾が盛大に返してやるのじゃ!」




 ☆ ☆ ☆




 僕の名前はマドックス=キラハート。キラハート公爵家の次男であり、魔法使いです。

 

 その僕が、今、ピンチです。


 「ああああ、僕をどこにつれてくのおおおお!」

 「騒ぐな人間!」


 僕は魔物に連れ去られていきました。


 そして、着いたところは禍々しい雰囲気の場所。僕はこの場所を知っていた。

 魔界。

 魔王が治める魔族の国。ここには凶悪な魔王が住んでおり、普通の人間が近づいたら瘴気により気が狂うらしい。


 魔王というのは要するに人間の敵だ。

 敵といういい方はあれかもしれないが、人間に戦争仕掛けてきているのは事実。今も、膠着状態が続いており、魔王討伐のために勇者が各地を旅して力を付けているところだ。


 そんなおぞましい魔王のいる国、魔界。

 なぜか、俺はここに連れ去られてきていた。


 ……えっと、どうしたらいいの?


 「こっちだ。ついてこい人間」

 「え?」


 状況についていけてない僕を案内してくれる鳥の魔物。

 僕は、なんとなくついていった。すると、でかい城の門の前に僕は経たされてしまったのだ。この城、小さいころ母様に読み聞かせてもらった物語で見たことがある。


 「ま、魔王城!?」


 僕は踵を返した。


 「帰ります」

 「待て待て待て待て! どうやって帰るつもりだよ!」

 「歩いてです! 怖いので!」

 「怖くねえよ! というか、魔王城が怖くてなんで魔物である俺は怖くねえんだ!」

 「あなた魔物だったんですか!?」

 「気づけよ! 魔界に連れてきた時点で魔物だろうが!」


 言われてみれば確かに!


 「はあ。人間。いいから入るぞ。魔王の娘様がお待ちだ」


 と、鳥の魔物は門をあけた。

 正直行きたくない。だけど、逆らったら命はなさそうだ。僕は渋々ついていった。





 魔王城は、でかい。

 一階部分でさえも天井が見えないほど高くなっている。ここで一階ということは二階に行くの大変そうだなあ。階段あるらしいけど長い階段だろうなあ。

 ただでさえ僕は体力がないのに。


 「さて、階段を上がるぞ」


 と、階段があらわれた。

 階段を上る。咲が見えない。


 十分くらいしたところでやっと上り終わった。


 「三階までいくんだからな。こんなとこでばてちゃ」

 「む、無理! 鳥さん飛んで連れてって!」


 この階段をもう一回は絶対に無理! 死んじゃうよ!





 俺は部屋のドアの前に立たされた。


 「ノックしてはいるんだぞ」

 「は、はい」


 こんこんと二回ドアをたたく。

 すると扉が勢いよく開かれた。そして、中から女性が飛び出してきて、俺はその女性に押し倒されるように倒れてしまう。


 「マドックスー! 会いたかったのじゃー!」


 と、紫の髪をした可愛い女の子は俺をぺろぺろなめていた。な、何で舐められてるの!?

 僕は汗臭いはずなのに! 汗が好きなのかな? たしかに汗はしょっぱいししょっぱい味が好きな人だったら舐めたくもなるかな。

 いや、それか性癖かな? 他人の性癖には口出ししないほうがいいよね。


 「リュシア様。貴方様がわかっておられても人間はわかっておりませんよ」

 「そうか。人間にとっては忘れてるだろうしな」


 その女性は僕から離れた。


 「妾は魔王の娘リュシア=ラグナロク。魔界で二番目に強い魔族じゃ!」

 「あ、僕はキラハート公爵家の次男のマドックス=キラハートっていいます」

 「ふむ。律儀なやつじゃ。そんなお主に朗報がある!」

 「朗報?」

 「なんと、魔王の娘であるお主と妾が結婚することになったのじゃー!」

 「けっ……」


 「ええええええええ!?」


 僕の叫び声は響き渡った。

 僕は思わず飛びのいてしまう。け、結婚て男性と女性が一緒に暮らすことでしょ? そ、それもお互い好きあってる中で!

 

 「そうかそうか。そんなにうれしいか。そうよのう。妾と結婚できるなんて光栄の極みじゃからな!」

 「いや、嬉しいんじゃなくて驚いているだけですリュシア様」

 「ふふふ。喜びに打ち震えるがよい。っと、先にお主にかけておかねばな」


 と、リュシアさんが何かを唱えると僕の下に魔法陣が浮き上がった。

 すると、僕の中に何かが流れ込んでくる。これは……魔力? しかも、大量の……。この量……やばい。抑えきれなくなって暴走する……!

 鎮まれ! 魔力暴走して魔人になってしまう!


 「抵抗が強いな。では……」


 どんどん魔力が流し込まれていく。

 や、やばい……。魔力が……抑えきれない!!


 数分後魔力の供給が終わった。

 そして、僕はすごい高揚感に満たされていた。今なら国をも亡ぼせそうな、そんな感じがする。すごい。僕にはこんな力があったんだって、今すぐにでも国を一つ滅ぼそ……。


 って、ダメだ! 国を滅ぼしちゃダメだって!


 「なにかを葛藤している?」

 「見物じゃぞ。黙って見ておれ」


 この力があれば……!

 だめよマドックス! そんなことしちゃらめええええ!

 世界の半分をくれてやろう。

 あんっ! そこはらめなのおおおおお!


 あああああ! 落ち着け僕! 落ち着くんだ! 力に溺れるなって! 力に溺れるとろくなことにならないってばっちゃんいってたじゃないか! あれ、じっちゃんだっけ。どっちだっけ?


 「って、あれ? 欲がなくなった?」

 「案外早かったのう」


 先ほどまでの欲がなくなった。

 な、なんだったんだろう。という、か! 僕は魔人になったのか!?


 「さてと。準備も済んだし! 妾の番となれ! マドックス!」

 「ええええええ!?」








 そして、僕たちは結婚したのだった。

 結婚して五年の月日がたつ。僕は魔界での生活も慣れていった。


 「そういえば、僕に恩があるって聞いたけど僕何かしたっけ」

 「覚えてないのも無理はないじゃろう。あれは……」

 「やっぱいいや。階層長くなりそうだし」

 「なぬっ!?」

 「それよりさ、勇者たちが魔界に入ってきたそうだよ?」

 「もはやか。妾の見立てではあと一年くらいじゃと踏んでおったが。まあいい。偵察に行くぞマドックス!」

 「かしこまりぃ!」


 僕は幸せな夫婦生活を営んでいた。

 魔界に住む魔物さんたちとお話ししたり侵入者を見に行って魔界から出て行かせたりしていた。

 人間のころだった僕は落ちこぼれで魔法も得意ではなかったし、女性より力もなかった僕は成長して人間の百倍の魔力を有し、十倍の力をもっている。

 もう、人間には戻れない。僕は後悔もしていないけどね。


 「って、あれは勇者じゃなくて……」


 見に来てみた魔界の入り口にはたくさんの騎士たちがいた。

 騎士の鎧の胸のあたりについている紋章は、僕が住んでいたルタゴ王国の騎士団ではないか!? 魔王討伐に本格的に打ち出してきたのだろうか。


 「ふむ。妾といえど少々骨が折れることになりそうだ。しかも、魔耐性までついておる。厄介になったのう人間は」

 「……僕が人間の時に開発してた鎧だ。完成したんだ」

 「知っておるのか?」

 「う、うん。開発にも少しは携わっていたから」


 僕って手先だけは器用だったし。


 「弱点とかはわかったりしないか?」

 「弱点という弱点は……。ああ、魔法に耐性をかけてるといえどあれは万能型の鎧だからなあ。目立った弱点はない……と思う。あ、いやあった。あの鎧は魔法で魔法を防御するというかたちだから魔力さえ吸ってしまえばただの鉄の鎧と変わらなくなると思う」


 魔法の鎧。魔法に魔法耐性をエンチャントしただけのただの鎧だ。

 ただ、鉄の鎧も物理体制はあるので魔法と物理にどちらも対応したものだ。


 「なるほど。じゃあ、魔法を吸い上げるのはマドックス頼む! 妾はそういう細かい作業苦手なのじゃ!」

 「了解。僕はちまちまやる方が好きだからね」


 魔法を展開する。

 魔法を吸収する魔法。これは魔王様から教えてもらったものだ。魔王様は娘に甘い親ばかな魔王さんで「わしのことはお義父さんと呼んでも構わない」って渋い声で言われた! たまに一緒にお酒を飲んでいる。


 「よく来たな人間どもよ! 妾が貴様らの相手をしてやるのじゃ!」






 人間の血で染まった魔界の大地。

 大量の人間の死体が積まれていた。これらはすべて魔物の餌となり糧となる。弱肉強食というのだ。


 だけど、僕自身はあの国には恨みもない。落ちこぼれだからって差別することもなかったし、それに……。


 「すげえな! お前魔人になったのか!」


 古くからの友人にも再開した。

 彼はハッター=ソリュート。騎士団の一員だ。彼は昔から一緒に育ってきた友人で幼馴染。かっこいいことが好きらしい。


 「そうだよ! かっこいいでしょ!」

 「ああ! かっこいいぜ! 魔人の力にうぬぼれず自我を保てるなんてスゲー!」


 僕の周りをはしゃぎまわって回っていた。

 僕も鼻が高くなる。いいよね、この優越感。いつも僕は劣等感しか抱いてなかったしこの気持ちは新鮮。ふふんだ。


 「その緋色の眼! うううう! デビルかっけえぜ! 俺も魔人になりてえ!」

 「ふむ。願いをかなえてやろうか?」

 「ああ、リュシアさん。俺は多分自我を保てないので遠慮しておきます。でも、マドックスってかっけーすね!」

 「そうじゃろうそうじゃろう。妾の自慢の夫じゃ」

 「いやー、マドックスを選ぶなんてお目が高い! リュシアさんとは気が合いそうっす! どうっすか? 昔のマドックスの話でも……」

 「いいのう! 妾もお主を気に入ったぞ! さて、昔のマドックスを詳しく聞かせてもらおうか」


 む、昔の話!?

 

 「恥ずかしいからダメ!」

 「いいじゃないかー。思い出を共有したらもっと仲が深まること間違いなしだぜ!」

 「そ、そう? じゃあいいよ!」

 「ちょろい!」

 「ちょろいのじゃ!」

 「ああ、そういうんならやっぱ話さないで!」





 「そういえば、お主はいいのか? 魔界に住むって本気なのか?」

 「ああ! マドックスのいる場所が俺の場所だ! 俺はマドックスがいないと生きていけないからな! 国に思い入れも特にないし! 騎士になった理由もかっこいいからだし!」


 ハッターは変わってないなあ。強くなってるけど性格は昔のままだ。


 「お主意外とドライなのか?」

 「いやいや、愛着がわかないってだけっすよー。俺は、マドックスいないと心の底から楽しめないんで!」

 「ふむ。ならば攫ったことでお主に迷惑をかけたのじゃな。すまぬ」

 「いえいえ! こんないい妻もって幸せですし大丈夫ですよー!」


 と、笑って返していた。

 だけれど、リュシアの顔がどんどん険しくなっていく。何かを睨みつけているような……。


 「お主、何か隠しておるじゃろ」

 「……な、なにがっすか?」

 「魔力で思考を感知できるのじゃ。なにかやましいことがあるんじゃろ。さては、スパイか貴様……!}

 「えっ! スパイ!? 信じてたのに……」


 ちょっと幻滅! そんなことするやつじゃないと思ってたのに!


 「……隠せないっすね。実は俺、隠し事あるんす」

 「素直にはけ。ならば命は許してやろう」

 「わかったっす。マドックス……」


 ハッターは一呼吸おくと頭を下げた。


 「マドックスが大事にしていた勇者フィギュアを間違えて壊しちゃった! ごめん!」


 という内容だった。

 ゆ、勇者フィギュアが壊された……? そ、そんな! 僕大事にしていたのに!?


 「な、なんで壊しちゃうの!」

 「えっと、遺品を整理してた時に見つけて、間違えて落としたら粉々に……」

 「僕大事にしてたのにいいいい!」

 「ごめん! まじでごめんん!!」


 うう、僕の大事なフィギュア……。


 「ほかに隠し事はないようじゃな。ふむ。それだけならまあ、よかろう」


 よくないよ! 僕にとっては大ダメージだよ……。





 さらに五年後。ハッターは魔界の騎士になり、僕の側近となった。

 そして、勇者が攻めてきた。もちろん返り討ちにした。


 「マドックスも見違えるほど成長したのう」

 「あ、ありがと」


 ちょっと照れくさいな……。

 でも、嬉しい。褒めてもらえるのは嬉しいな。


 「ハッターも成長している。見事じゃ。魔界にもそろそろ馴染んでおることじゃろう」

 「ふふ。そうっす! 今では鎧なしで魔界の瘴気に耐えられるようになったし、立派に成長を遂げてるっすね!」


 ハッターの実力もあがってきていた。今では高レベルなモンスターも彼に従っている。彼は彼でそのモンスターを乗り回して遊んでいるとか。


 「……それに比べて妾は出会った頃から変わっておらぬな」

 「そんなことないよ!」


 強さの部分じゃ変わってないけどさ。


 「リュシアは出会った頃よりもっと魅力的になってるよ!」

 「そ、そうかの? て、照れるのじゃ」

 「だからそんな落ち込まないで!」

 「わかった。マドックスが言うのなら落ち込まないのじゃ!」


 リュシアは笑顔を向けてきた。眩しいほどの笑顔に僕は思わず照れてしまう。


 「やっぱ好きという気持ちは変わらないのじゃ!」

 「僕もだよ。リュシア」







 「で、今だから聞くけど恩義って何?」

 「人間に追われてるところを助けてくれたではないか」

 「あ、あの時か! じゃあ、あの子かリュシアって!」






短編ですが書いてみました。読んでくれた方、ありがとうございました!

自分が連載している「非モテ集団の筆頭である俺が美少女と付き合い始めました」もよろしくお願いします!

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