折れない心の持ち主
「後はあなた1人です。…どうしますか?。」
木暮が重を見下ろしながら言う。依然として燃える翼で宙にとどまりいつでも攻撃できる体制を崩さない。
(…剣…だけでなく創士さんまで。これが最も国家魔導師に近い人。ダメだ…勝てる気がしない。でも…)
「諦めたらそこで終わりなんです。俺は今までもがき続けてきました。一矢報いますよ!。L2『篝火』×100。…」
目くらましを行い木暮の攻撃範囲から離れる重。
「L2『蛍火』×1000!。」
蛍火による遠距離爆撃を行う。
「面白い魔法ですが悲しいかな相性が抜群に悪い。私にとってこの魔法は…避ける必要もない。」
回避すらせず全てを受け止める木暮。着弾した蛍火は木暮の体に触れると掻き消えてしまう。
「…っ⁉︎。…今何かが…」
しかし突然顔をしかめる。まるで自分が予期せぬことが起こったような顔であった。
「まだまだ行きますよ!。L2『火炎』×1000!。」
さらに追撃をかける重。それは木暮に思考の隙を与えないほどの重爆撃だった。
(⁉︎…また…成る程、思っていたより頭がまわるようですね。それに器用さもある。それだけに…)
「残念ですね。あなたに才能がないことが。見たところ火属性の…それもlevel2までしか使えない。それを補うために努力を重ねたのでしょう。しかしどれだけ伸び代があろうとも…スタートラインが低すぎます。ふん!。」
木暮が翼を一振りする。先程の雪のような速度ではなく羽が重に向かって一直線に走る。
「…才能がないことはわかってる。無い物をねだる時間なんて俺にはない‼︎。」
重の体から炎が巻き起こる。事前に体に貯めておいた遅延魔法。身を守るために発動したのだった。
『ドドドドッ‼︎』
「例え…国家魔導師になれずともその努力を惜しまない姿勢があれば人生は歩いていけます。だから失望せずに…」
重がいるであろう場所を見つめながら木暮が言う。そこにかつての自分の姿を重ねていた。それと同時に驚愕もしていた。自分はある程度の才能があった。しかし目の前にいる少年は遥かに低い、魔導師を志すことさえ普通はしないlevelの魔法しか使えない。それでも折れずに歩んできた心の強さを評価した。それでも現実は甘くない。自分に立ちはだかった壁以上の壁が少年には立ち塞がることになる。それならここで引導を渡すのもやぶさかではないと思っていた。
「…俺の道が険しいのは…わかってる。それでも…俺の道を…」
木暮の言葉を遮るように重が叫ぶ。木暮の魔法によって大ダメージを負い魔力による代替が追いついておらず至る所に血の跡が見える。
「俺の道を決める権利はあなたにはない。俺は折れない!。『火拳』。」
両手に火拳を纏い重が飛びかかる。
「言っても分からないなら…」
木暮が蒼炎を重に向けて放とうとする。
「剣!。いまだ!。やってやれ!。」
重が叫ぶ。その視線は木暮の後ろ。剣が倒れていたところに向けられていた。
「な⁉︎…フェイク‼︎。」
慌てて後ろを振り返る木暮。しかし剣は依然として倒れたままである。
「…この一瞬が欲しかった。」
重が木暮の眼前に迫る。両手を前に突き出す。
「これが…俺の新しい、必殺だ!。『双砲火』。」
重の両手を砲台に放たれる熱線が木暮の体を捉える。
「…はぁはぁ…どうだ…どう…だ…」
重が糸の切れたマリオネットのように倒れる。魔力が切れたのだ。最後の魔法に全てを使い切った為体の傷は癒えていない。腕は魔法の熱で焼き爛れていた。
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「あいつ…なんも改善してないじゃないか。まだ自分の腕を代償に。おい!。誰かあいつを擁護室に連れてってやれ。もう終わりだろ。」
如月が重を見ながら言う。以前改善しろと言った火拳による代償。しかし現在重の腕は火傷を負っていた。
「わかった、俺が行くわ。」
風待が重を運びに行こうとする。しかし…
「…少し待ってくれるかな。まだ…終わっていないかもしれないよ。」
若草が風待に待ったをかける。
「ん?……なるほどね。1人タヌキがいるな。確かにまだ…終わってはないようだ。よく気づいたな。」
「人を観察するのは僕の基本ですからね。」




