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天使と呼ばれた女

 エリートとしての道を歩いて来た自覚はあった。とある高等魔導教育機関を優秀な成績で卒業。在学中に二つ名を獲得。Level5の習得。そこからすぐに道は開けると思っていた。国家魔導師にすら手が届くと信じていた。周りはみんな私より弱い。私がこの国を導いていく。そう…信じていた。しかし現実は甘くない。私程度の実力の者はそれこそ星の数ほどいた。井の中の蛙大海を知らず。自己変化であることに驕っていた。それだけで他者を圧倒できると。






「なんで…希望を持っちゃったんだろ。こんなの届きっこないよ。」

 功績を焦った私はある国家魔導師に直接対決を申し込む。ここで認められればまだ道は閉ざされない。自分の力をまだ受け入れていなかった。結果は惨敗。ただただ力の差を思い知らされただけだった。


「賭けは俺の勝ちだな。代価としてお前の全てをもらう。」

 私が対戦した男からかけられる言葉。それは慰めや励ましなどの甘い言葉ではなく現実を突きつけるものだった。

 私が国家魔導師と簡単に対戦できるはずはない。代償を支払った。代償は私のすべて。まさに一世一代の大勝負。準備は万端に行った。でも届かない。


「…はい、貴方に全てを委ねます。」

 その時の私は何を考えていたのだろう。今でも思い出せない。恐らく神を恨んだりしたのだろう。何故もっと早く現実を教えてくれなかったのかと。神など信じていなかったのに。しかしそこで私の生は一変する。


「取り敢えずお前には俺付きの魔導師になってもらうことにした。」


「え…わ、私を国家魔導師付きに?。」

 言っている意味が理解できなかった。国家魔導師付き魔導師。国家魔導師が直接任命する特別職で1人につき2人まで任命できる。その職務は多岐に渡るが一般的には国家魔導師を支えることが求められる。そんな役目を私に…。


「あぁ、お前の全ては俺のものだ。だから俺について来い。俺がお前を強くする。」

 その言葉を理解した時私の眼から涙が溢れ出した。その涙は安堵からなのかまだ強くなれる希望からなのか今となってはわからない。


「わ、私…は、まだ強くなれま…すか?。」


「俺が求めるのは後ろから支えるような軟弱な奴じゃない。横に並び立つ奴だ。その可能性を感じただけだ。死に物狂いで強くなれ。なれなければ捨てる。自由に生きればいい。」


「…はい。」

 それからの私は今までの訓練とは全く違った彼のやり方をそれこそ必死にこなしていった。当然何度も躓き挫けそうになったが乗り越えた。自分に可能性があるのなら全て試す。なんでもやる。その頃には彼の元を離れ自由に生きるという選択肢は頭の中にはなかった。新しい二つ名を授かり名実共に彼のパートナーを名乗れるようになったのは最近のことである。





「…どうして昔のことなんて。」

 ベットに横たわりながら思い出す、夕食の時のあの子の発言。『お二人は付き合ってるんですか?』。その言葉のせいだろうか。


「…元より私は彼のものだから。」

 あの日…私の全てが変わった。私は今では神を信じている。何もしてくれない飾りものの神なんかじゃない。…私のことを彼の悪魔と対比で天使と呼ぶ人もいる。それで良い、天使は神に仕える者だから。…私にとっての神はあの人…如月花月なのだ。その彼の前で私は負けない。








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