若草と創士
(いつからだろうか。現状に停滞することを良しとしたのは。)
(生来僕には向上欲というものがあまりなかった。けれど、それでも出来てしまった。その辺は神様に感謝するしかないだろう。)
(この学園に来て初めて同じレベルの人達と会った。その生活はとても楽しいものだった。)
(でも…そう思っていたのは僕だけだったみたいだ。周りの視線が言っていた。お前は俺達とは違う。なんで凡人のふりをするんだと。…やっぱりあの事件のせいだろうな。)
(そしてこのまま流れるようにただ過ごしていくと思っていた。そこに彼らが現れた。まだ魔法自体は拙い。だが熱がある。その目にやられた。気がつけば声をかけたいと思っていた。)
(彼らと過ごす日々は僕の中に確かに何かを溢れさせた。忘れていた、いや、知らなかった思い。強くなりたい。彼らを導ける存在になろう。)
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「これが…僕の力です。」
地面にうつ伏せで横たわる創士。そこに若草と大樹君人形が近寄る。その手には燃える槍が握られていた。
「いきますよ。」
そして2人同時に槍を振り下ろす。その槍は創士を貫く。…はずだった。
『キーン‼︎。ギギギッ…』
「な⁉︎どうして…。ぐぅっ、」
創士の届く直前槍が空中で何かに阻まれてしまう。どれだけ力を込めようがその切っ先は届かない。
「…ありがとう。若草大樹。」
倒れたまま創士が口にする。それは何故か若草への感謝の言葉だった。
「貴様のおかげで俺は一段上に上がれた。…L6『※※※※※』、おっとまだ口にする事は出来ないか。魂が耐えきれない。」
「え、L6…本当ですか。本当にL6を?。」
魔法のレベルは一から七まで存在する。その中でもLevel7の魔法にはある代償が必要とされ発動は現実的でない。そうなると実質最高レベルは6となる。しかしLevel6の魔法にも制限が課されており自身の器を超えて使うと命を縮めることとなる。その魔法を創士は発現させることに成功したのだ。ただし現状では魔法名を唱えることも出来ない。つまり魔法の残りカスだけで若草の炎槍を防いだのである。
「あぁ、俺の中の魂がそう言っている。まるで昔から知っていたかのような感覚だ。しかし十全には使いきれんな。」
「発現させただけで驚きですよ。ここ5年は発現を観測されていないですからね。…それでそれはどの様な魔法なのですか?。」
「それは自分で確かめるといい。」
そう言うと創士を立ち上がる。その勢いで若草と大樹君は弾かれてしまう。
「ふむ、この魔法は…『守らずの型』。…体が軽い。」
創士の体を覆っていた鎧にヒビが入り剥がれ落ちていく。
「狩刺刈刃を合成。いくぞ。」
片手で狩刺刈刃を錬成し、若草に斬りかかる。
「速い!。大樹君。」
若草の言葉に反応して躱す大樹君。そして創士に斬り返す。
「甘い。そこにいろ!。」
狩刺刈刃の柄の部分が伸びて大樹君を貫き地面に刺さる。
「爆ぜろ!。」
刺さった部分が発火し大樹君は炎に包まれる。
「!。大樹君!。L4『風刃』。『ピゥン!』。」
風の刃を飛ばし更に指先から大豪炎を放つ。
「『螺子巻殻』合成。」
盾で防ぎながら若草に突撃する。盾の持つ回転によって攻撃は全て弾かれる。
「くっ、まだです。」
大樹君が足を踏み鳴らす。それによって斬大地が発動し創士の足元から襲いかかる。更にそれに合わせ若草が創士にカウンターを放とうとする。
「ほぉ、真っ向勝負か。面白い。合宿の始まりの締めくくりとしては実にいい。」
創士の盾に魔力が集まり更にその背に羽の様に魔力が形作られ加速する。
(創士先輩の魔法…。いま確認できているのは高速錬成、更に高速合成。あとは…魔力のコントロールが精密すぎる。…一点突破しかない。僕もコントロールには自信はある。)
「大樹君。全解放!。そして…L4『火焔』。鋭く強く。」
若草の声に反応して大樹君が創士の向かって無数の魔法を放つ。若草は火焔を右手に集める。重の火拳の様だが熱量は火拳より高く更に密度も高い拳。それを構える。
「ち、煩わしい。」
大樹君の攻撃によって速度が少し下がる創士。
「それが僕です。そしてこの一撃は強い。」
若草の右手と創士の盾がぶつかる。
『ガキーーンッ‼︎。』
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「会長…その魔法は」
真利谷の口から声が漏れる。創士の言った言葉。L6。発現することすら稀な魔法。それを僅かだが使用している。その姿に感動を覚えた。自分のことを凡才だと言い切りそれでも努力を続けた想いびと。その努力が実った瞬間だったから。
「あれがL6。理論上最高のレベル。初めて見た。」
重も自分が見たものを信じられない。
「まだあんまりよくわかんねーけどな。ただ尋常じゃなく速いな錬成が。合成も過程を省略できてるみたいだ。」
「L6を使いこなすことはとても難しいと何かの本で読みました。また、完全に使えるかもわからないそうです。」
澪がL6について補足する。
「それならどっちが勝つかわからないな。大樹さんは完全に魔法をコントロールしてるっぽいしな。凄い練度だ。」
剣が勝敗について考察する。
「そうだね。まぁ、どっちも強いってことだよね!。私としてはお兄が自分を出してくれて嬉しかったな。」
花凛が1人違う観点から感想を言う。
「花凛…もう黙ってていいぞ。」
そんな花凛を剣は疲れた様な顔で見たのだった。




