残された者
「ふーふふーん、ふふふーん。」
1人の少女が鼻歌を歌いながら寝転がっている。その表情は穏やかだがどこか憂いを帯びたものだった。
「何か面白いことはないかね〜。」
ふと口をついて出た言葉。それは少女の気持ちを表していた。
「それなら俺と組まないか。」
突如頭の上から声がかけられる。少女が起き上がり見ると少年がいた。
「お前が若草花凛だな。退屈してるんだろ。なら俺とコンビ戦に出ろよ。面白い奴と戦えるぞ。」
少年が少女の目を見ながら語る。それは確信に満ちたものだった。
「…別にいいけど〜少しめんどくさいな。私は別に戦いに飢えてるわけじゃないだよね。退屈なのが嫌いなの。」
「…もし俺と組んで優勝したらお前と友達になってやるよ。そしたら楽しいぞ。」
その言葉は少女がもっとも欲した言葉だった。少女はその性格と隠れた実力ゆえ友ができなかった。正確には友はできたが信頼できる友には恵まれていなかった。それは少女の兄にも言えることだった。
「…私はめんどくさいよ。それでも良いの?。」
「あぁ、なんならその性格も変えてやるよ。」
こうして花凛と剣はコンビを組んだ。
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「剣君との約束があるからね。だから私に倒されて。」
花凛が重を見つめながら言う。その言葉には想いがこもっていた。
(…ぐっ、どうする?かろうじて火拳は消さずにいれたけど。あとは…これしか残ってない。)
重は考えを巡らせる。こうしている間にも草薙は剣と戦っている。
(…覚悟を決めろ。…何もしなければこのまま負ける。なら自爆覚悟だ。)
覚悟を決めた重。その体に魔力が集まっていく。
「何をするつもりか知らないけどさせないよ。L4『水成槍』。」
さらに重の体にも槍を刺す花凛。
(火拳…解放!。)
火拳を構成していた火炎が暴発する。その勢いで腕に刺さっていた水成槍が弾け飛ぶ。その代償に右手は焼きただれる。
(…痛、だが動く。遅延魔法解放。さらに…掛ける。)
右手に仕込んでいた蛍火を×20して解放する。これが今重ができる限界だった。
(コントロールしろ。1:1に分けるんだ。)
蛍火の内10発は花凛の方へ向かう。今は姿が見えているので追尾も行う。
「無駄だよ。L3『水陣壁』。」
水の壁で相殺する花凛。残りの10発はどこにいったのか?。
『ドドドドッ…』
重自身に降り注いでいた。その衝撃で水沼から抜け吹き飛んでいく。
「…ぐっ、……残った…。」
立ち上がり前を見る重。傷は癒えていくがダメージからは回復しきれていない。
「やってくれるね。まさか自分に魔法を当てて抜けるなんて。でも…」
花凛の言葉は途中で途切れてしまう。後ろからの爆撃。それはさっき重が放った蛍火だった。
(今だ!ここで決めないと勝ちはない。)
「L2『火炎』×100…『火拳』。L2『篝火』×10。L2『蛍火』×100。」
「ん…見えない。でも…蛍火は水波で守る。火拳は…水撃掌で受けて立つ。」
手に水を纏い構えを取る花凛。
『ガッ、ガガッ、ガシッ…』
重の拳をいなし続ける花凛。重は燃える右手のダメージを受け続けていた。
「君は右手しか攻撃に使えない。だからこのまま粘らしてもらうよ。」
重の右手にだけ注意を払う花凛。実際この状況で有効なのは右手での一撃だけだった。
「…なんのために目隠しをしたと思う?。」
重が左手を前に突き出す。
「解放。高出力火炎。」
射出口を狭められた火炎が左手から飛び出す。
「な、…」
とっさにガードをする花凛。それが命取りだった。
「ここだ!。爆ぜろ火拳。」
右手による殴打。さらに解放をする。あたりに火炎のエネルギーが立ち込める。煙が収まった時そこには…
「…ごふっ…あぁ…この感じ…魔力が切れたみたいだ。私の負けみたいだね。…剣君。あとは任せたよ。」
そう言い倒れる花凛。
「はぁ、はぁ、くっ…」
息が乱れる重。
(勝った…あ、茜ちゃんのところに行かないと。)
足を進めようとする重。そこに、
『ドーーーーーン‼︎』
大きな爆発が起こる。
「やっと出れたか。…かなり粘られたな。結局あれまで使っちまったよ。」
剣が現れた。1人である。
「剣?ということは…茜ちゃんは…」
「あぁ、草薙なら俺が倒した。かなり削られたがな。そういうお前も花凛をやったのか。…だがタダでは済まなかったようだな。」
重の様子を見ていう剣。
「そうか。茜ちゃんでもダメだったか。確かに俺はかなりやられたよ。でも茜ちゃんのためにも負けたくない。」
「そいつは俺もだ。」
こうして2人の一瞬の戦いが始まる。
 




