来たる男と探す男
国家魔道士就任に関する規定
我が国の国家魔道士は上限を10とする。それ以下であるのは良いがそれを超えることはない。
国家魔道士に就任するための条件を下に示す。下記の一項、二項の内どちらかを満たすことを条件とする。
一項
一条 この国の高等魔導教育機関を卒業すること。またはこの国の国籍を持つこと。
二条 一騎当千であること。またはそれに値する技能を持つと認められること。
三条 国家魔道士の枠に空きがあること。
四条 現役の国家魔道士2人の推薦があること。
二項
一条 この国の国籍を持つこと。
二条 現役の国家魔道士を圧倒的に倒すこと。この場合5回の戦闘を行い4回勝利すること。4回勝利した時点で国家魔道士として認定する。この場合監督として2人の国家魔道士の立会いを必要とする。ただし相手は一項二条においての一騎当千に当たる者に限る。
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重達がトーナメントを闘っている時その場所は張りつめていた。
「今日は一体どういったご用で?。」
この学園の長たる学園長が訪問者に尋ねる。口調こそ丁寧ではあるがその表情からは敬意は伺えない。
「おいおい、用がなきゃきちゃいけないのか?と言いたいところだが今日はしっかり用事があるんでな。」
訪問者の男が答える。かなり上背があり良い体格をしている。
「あの、あの方は?。」
そこに居合わせた教師が先輩教師に尋ねる。あの男の発する気配が只者ではないと察してだった。同時に敵わないとも悟った。彼とてこの学園で学び七星には届かなかったが二つ名を授かり立派に卒業した強者だった。
「…国家魔道士就任に関する規定の二項適用者だ。」
「!。あの方が…」
答えを聞いて理解する。国家魔道士就任に関する規定の二項の適用者は今までに1人しかいない。前任者を4連続で圧倒し成った男。力だけでその座を簒奪した者。その性分の荒さは有名であった。
「俺の用事は1つ。きな臭い動きを取っている国がある。それに気をつけるようにとの伝言だ。夏にはあれがあるんだろ?。」
「⁉︎まさか…同盟国にそんな動きがあると?。」
「まだ可能性の話だ。何も確信はない。だが警戒はしていろ。まぁ俺としてはそっちのほうが盛り上がるけどな。…伝えることは伝えたぜ。ちょっと中を見て帰るわ。」
男が部屋を出て行こうとする。
「…待ちなさい。私が出口まで送ろう。あなたが見て面白い物はこの学園にはないと思いますけど。」
それは言外に何もせずこの学園から立ち去るように告げていた。
「いや〜それはどうかな?。去年たまたま見たあいつ…えーと、そう!あの遅延魔法を使う奴。あいつは面白かったな。」
何もしない代わりにその男を出せと伝える男。
「…そんな要求が通ると思っているのですか?。」
男を睨む学園長。
「「…………」」
2人の間に沈黙が流れる。
「…はいはい、分かったよ。おとなしく出て行くよ。あんたとここでやるのは得策ではないからな。周りにハエが多すぎる。」
片手を上げて戦意がないことを示す男。男の周りには学園長を援護するように教師達が囲っていた。
「そうですか。それでは行きましょう。」
男を伴って学園長が正門へ向かう。
「はぁはぁ、良かった。ここで戦うことにならなくて。」
先ほど質問した教師が戦闘態勢を解きながら言う。その額には汗が浮かんでいた。
「全くだ。ここが戦場になるところだった。」
国家魔道士同士の争いは莫大な被害をもたらすことになる。
「…あの人が如月花月。」
過ぎ去った嵐の名をつぶやく教師。決して届かない領域を知った日だった。
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そんなことがあったとはつゆ知らず人を探す男が1人。
「くそ〜どこ行ったんだよ。次は準決だぞ。さすがに重と草薙相手に1人は無理だ。」
剣であった。これまでの戦いは1人で勝ち抜いていたがそれも厳しいものがあった。この学園には弱い者などいないのだ。
「間も無く準決勝を始めます。出場者は集まってください。」
放送が流れる。
「くそ、とりあえず会場に行くか。きてくれよ。」
祈りながら向かう剣であった。