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勝たずとも負けず

「…っ…ぐっ……」


「…っち、…かはっ、…」

 重による腹部への打撃と剣による後頭部への振り下ろし。それは同時だった。お互いに防御を捨てて放った最後の一撃。重は後頭部への衝撃でその場に倒れ、剣は打撃の威力で地面を転がる。うつ伏せに倒れる重と仰向けの剣。2人は微動だにしない。


(…動け俺の体。揺れる視界なんて放っておいていい。立ち上がれば…勝ちなんだ。)


(…腹に力がはいらねぇ。…なら、腕の力で…上体を持ち上げろ。…まだ…俺は負けてねぇ。)

 重と剣はその場で動かぬ自らの体を不屈の心でなんとか動かそうとしていた。どちらもこの瞬間が決着の時だと分かっていたのだ。重は地面を這うように体に力を込め、剣は倒れたまま肘を立てようとする。それぞれが今できる範囲でなんとか立ち上がろうともがいていた。


「…重!…俺は…まだ…負けてないぞ。」

 状況が動く。剣は上体を起こすことに成功しあと少しで立ち上がる段階にきていた。


(…くそっ、…腕に力が入らない。…立ち上がれない。)

 剣の声を聞いて更にもがく重だが腕にも力が入らずただ地面に吸い寄せられる。


「…はっ、流石のお前も…限界か?。なら…俺の勝ちだ。」

 遂に剣は立ち上がることに成功する。膝に手をついた状態ではあるが今の重の状態と比べればどちらが勝者かは一目瞭然である。


「…俺の2連勝だな。」


(…また、負けるのか?。…この1年強くなったつもりだったのに。…剣には…負けたくない。…思い出せ、俺が1年でやってきたことを!。」


「…まだ…終わってない。…いくぞ…L2『火炎』。」

 重が魔法を唱える。それは重が最も使ってきた魔法。そしてそれにこの1年で手に入れたあの技術を加える。


「…な⁉︎…重テメェ、……やってくれてた…な。」

 重は自らの腹部で火炎を発動した。魔力のコントロールによって地面に対してのみ射出された火炎は重の体を勢いで弾く。自分から吹き飛ばされる形になった重は半立ちの剣に衝突。剣は咄嗟のことに反応出来ず重を受け止める形になる。


「…悪いな、剣。2連敗はしたくないんだ。」


「この野郎…人の上で舐めたことを…。…ふー、…この負けず嫌いが。」

 仰向けになる剣の上に重も仰向けで倒れる。重が立ち上がらない限り剣は起き上がれない。だが重にはもうそんな体力は残っていない。よって導き出される結果は引き分け。


「まぁ、実質俺の勝ちだけどね。俺が上に乗ってるわけだし。」


「は?訳わかんねーこと言ってんじゃねぇーよ。そもそも俺だけが立ち上がった時点で俺の勝ちでも良かったんだぞ?。」


「それこそ訳が分からないね。あの時も俺は気絶してなかった訳だしさ。だから見るべきは今の状況。俺が剣の上に乗って押さえ込んでいるこの状況が判定に有効だね。」


「押さえ込んでねーだろ。乗ってるだけじゃねーか。オラ!もう終わったんだから退けよ。しんどいだろ。」


「動けるわけないだろ!。…もう出し切ってる。」


「なんでお前がキレ気味なんだよ!。…おーい、誰かこいつを引き摺り下ろしてくれ。」

 闘技場に降りて来た若草達が目撃したのはぴくりとも体を動かせないくせに言い争いをする重と剣の姿だった。


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