生涯のライバルだからこそ
剣は大きく体を仰け反らせ螺旋槍を投げつける。剣自身も既に魔力が枯渇間際のため投げたあと体勢を崩して前傾によろめく。
(…重、今回は俺の勝ちだ。お前との戦いはいつもギリギリになる。だからこそ意味があるんだ。そのギリギリが俺を高みに押し上げる。)
剣は勝利を確信していた。重には槍斧の一撃を加えている。それに今投擲したのは貫通系最強の螺旋槍。積み上げてきた勝利への階段を確実に登り切ったと思っていた。思っていたからこそ最後の一瞬、隙が生まれた。槍を投げる瞬間を視界に収めていなかった。
「…剣、…終わったと…思っただろ。」
剣に声がかかる。それは本当ならもう魔力切れになっているはずのライバルのものだった。剣は慌てて顔を上げる。
「…お前…どうやって…!。…螺旋槍の軌道は曲がらない。俺は確かにお前に投げたはずだ。」
重に向けて投げた槍は重にはギリギリで当たっておらず横たわる重の両足の間に突き刺さっていた。
「…あぁ、あの状態から念入りに潰しにきたのには驚いた。だけど、…俺はお前の想像より…タフだ。ギリギリで何とか自分に火炎をぶつけてぶっ飛んだ。…ずっとぶっ壊れるまで使い込んできたオレの魔力タンクは最後の最後で絞り出し方を教えてくれた。…俺は…まだやれるぞ、剣!。」
重がふらつきながらも両足で立ち上がる。その両手には火拳。既に夜炎を発生させるだけの魔力は残っていなかった。
「…ふっ…はははは、…あーあ、そうかよ。そうだよな、お前は俺の生涯のライバルだもんな。最後に気を抜いたのは俺のミスだ。…いいぜ、重、俺もまだまだやれる。」
剣は自分の失敗に対しその場での後悔はやめた。それよりも今は目の前の闘志あふれるライバルを叩き潰したい。その気持ちの方が勝っていたのだ。お互いがお互いを死ぬほど意識し負けたくない。そんな2人も思いはお互いを高めたい限界を超えさせる。それが重と剣が歩んできた道のりだった。
「…L3『黒鉄の太刀』。…今の俺が錬成出来るのはこの一振りだけだ。…だがまぁ、これからの戦いにはお誂え向きだ。」
剣が錬成したのは平凡な太刀。その握りを確かめながら剣が言う。そして構えをとり…駆け出した。
「…来い!剣。…俺は退かない!。」
剣の上段からの斬撃を体の回転でいなす重。そしてそのまま肘打ちを剣に浴びせる。
「…ぐっ…⁉︎…てめぇ、…痛いだろうが…!。」
剣がその場で横に太刀を振るう。しゃがみ込みそれを躱す重。そのしゃがみ込んだ重の顔面に剣は膝蹴りをくらわせた。
「…っ…剣こそ、随分荒っぽいことを…。」
蹴られた鼻から血が出る重。膝蹴りの衝撃で上体が浮き上がる。
「…そこだ。」
上体が浮いた重に剣は太刀の柄で刺突を当てる。それによって更に数歩後退する重。これで太刀を振るう間合いになった。剣は後ろにタタラを踏む重に渾身の斬撃を放つ。
「…ぐっ…ぐぐぐ……」
重はギリギリなところで斬撃を防いだ。体の上で腕を交差させることにより斬撃を受け止めたのだ。火拳でなければ無事では済まなかっただろう。重は交差させた腕を思い切り振り払う。火拳に挟まれた太刀の刀身が折れ空中を舞う。重はそれに目もくれることなくそのまま剣に接近する。剣は太刀を折られた衝撃で腕がかち上げられ胴体を晒していた。
「これで終わりだ、剣!。」
右手を振り上げ拳を固める重。残りの全ての魔力を右手に凝縮していた。
「…まだ負けてねぇ!。俺が勝つ。」
太刀を叩き折られた剣はだが慌てるでもなく濃厚な敗北に悲観するでもなく最後まで勝機を探っていた。そして見つけた最後の行動。重の拳が届くまでに腕を振り下ろす。腕にはまだ太刀の柄が残っている。これを振り下ろせば重の後頭部を狙うことができる。
そして決着の時がきた。




