聖日の予定
『…チク…タク…チク…タク…チク…』
規則的か音が響く室内。誰も言葉を発さないその場所で内部に捕らえられた者は一様に視線を下へ向けていた。その視線に映るは2枚の紙。だがたかが2枚の紙と侮るなかれ。この2枚の紙の効力によって冬休みを失う者が出る可能性もあるのだ。
「よーし、後5分なぁ。今日が最後のテストなんだから脳みそ振り絞れよ。」
監督する槙野がクラスに声をかける。その言葉に対する反応は様々だった。既に手を止めて満足そうな顔を浮かべる者、同じく手を止めているが全てを悟った弥勒菩薩のような顔相を浮かべる者、最後まで諦めない者、それぞれが自分のこれまでの努力の成果を発揮してテストと向き合っていた。そんな中全星寮の3人は
(…良し、最後に見直そう。大体8割ぐらいは自信あるし…おっとここ漢字間違ってたな。危ない危ない。…剣、ちゃんとやってるな。)
既に解き終わり最後の見直しをする重。
(…くっ…絞り出せ俺。…ここは絶対にやったはずだ。…はっ!…いける…部分点を荒稼ぎしていく。…)
やや空白は目立つものの分かる範囲で解答を書き連ねる剣。完全な答えに至っていない問題も途中経過を書いている。
(この科目は多分平均点が64点ぐらいになる筈。…剣さんに教えた感じだと…平均点に届くかギリギリですね。剣さん、頑張ってください。最後まで諦めないで、しっかり部分点を獲りにいって。完答じゃなくてもいい問題もあります。)
解答用紙を全て埋めきり、静かに剣を案じる澪。
「…はい、終わり。筆記具を置け。後ろから解答用紙を回してくれ。おーい、そんな今答え見ても何も変わらないからさっさと回せ。お前らも早く帰りたいだろ。」
槙野がテスト終了を告げ後ろから答案用紙を回すように声をかける。
「…よし、全部揃ってるな。今日でテストは終わりだ。学校も二学期はあと3回登校するだけで良い。その3日間は絶対に来いよ。今日から3日間休みになるけど忘れるなよ。正当な理由なく休んだ奴はテストの結果をコピーして学校中にばら撒くからな。」
槙野がテストの枚数を確認し終わり言う。2学期で登校するのはテスト返却の為の2日間とその次の日の終業式だけである。本日より3日間はテスト採点期間となり休みだ。
「んじゃ、解散。テストの結果次第では…冬休みに来てもらうからな。」
最後に不穏な言葉を残して槙野がクラスを去る。このクラスのホームルームはいつもこのように簡素で生徒からは受けが良い。途端に色めき立つクラス。テストからの開放感で来たる12月24日に向けての話が弾む。
「なぁ、彼女いない男子で彼女持ちの奴らを襲撃しようぜ。クリスマスの本来の意義も忘れイチャつくカップルを根絶やしにしたい。」
「そうだな、本来クリスマスとはキリストの降誕祭であって教会で厳かに過ごすべきものだ。キリストは人類最古の魔導師と言われているし、しっかり個人で拝むべきだ。」
一部男子からクリスマスへのヘイトが漏れる。
「モテない男子たちサイテー。」
「ほんとほんと、自分達がモテないのを誤魔化して他人の邪魔するなんて。だからモテないのよ。」
そのヘイトに対して女子から咎める声がかかる。何時ぞやと同じ光景になりかけたが男子チームに秘策があった。既にテストは終了している。つまり男子二強の一角、剣が味方になってくれるはず。そう目論んでいた。
「なぁ、剣、重。お前らも俺たちとカップルを呪いながらクリスマスを過ごすよな。」
クラスメイトの1人が重と剣に参加を呼びかける。
「…あ、いや、ごめん。予定が埋まってるんだよね。俺も剣も。」
「…な⁉︎…何!。…そんなお前らに彼女が出来たと言う話は聞いてない…!。…はっ!まさか…お前ら…」
まさかのお断りに動揺する男子達。そこで誰かが禁断の発想をする。そしてその発想は音にならずとも伝播していく。
「…え、まさか、火祭と重君が⁉︎。…案外悪くないカップリング。…攻めは火祭?でも重君の意外な攻めも…」
クラスの中の腐女子が反応を示す。
「…違う、違う!。全星寮でクリスマス会をするんだよ。茜ちゃんとか夢坂とか生徒会の人達も呼んで。みんなも良かったら来る?。」
慌ててクリスマスの予定を話す重。
「いや、そのメンツの中に入るのは…。逆に草薙凄いな。でもまぁ、草薙は重が誘えば絶対参加するか。」
「ちぇ、お前らも女子とイチャコラ過ごすのかよ。裏切り…って剣は?。」
重と剣の裏切り?を嘆くクラスメイトだが先ほどから剣が一言も発していないことに気がつく。ゆっくりと剣の机の方を見ると、
「……………」
テストが終わってから微動だにしない剣の姿がそこにあった。
「「「剣!(火祭)」」」
クラスの心が一つになった瞬間だった。




