第3の銃
「霧島君が素手で十分に強いこと知っている。だから一切遠慮する気はないよ。」
素手になった霧島に対し若草は最大限の警戒で応える。霧島が若草の状況処理能力を高く評価しているように若草も霧島の戦闘センスを評価している。素手になったからと言って弱くなる事などないし、寧ろ目の前の男はここから上げてくる。そんな確信を持てた。若草の右手には炎、左手には風を纏い、中腰の構えをとる。
「…ふっ、そう言いつつ構えは完全に受けの体勢。そりゃそうだ、誰だって知らない物は怖い。第一輝霧島飛春は銃使い、近接のデータなんて残ってない。何が出来るかも…分からない!。」
霧島が地面を踏み締める。砕ける地面、その破片が空中に飛び上がる。その破片に対し右手を振るう霧島。破片は一直線に若草に襲いかかる。
「…土の礫。……っ⁉︎…いつの間に………」
飛来する礫を左手の風圧無効化しようとする若草。だが礫が触れる寸前爆発する。霧島は腕を払った瞬間に火属性の魔法を仕込んでいたのだ。目の前が黒煙に覆われた若草は霧島の接近を警戒して自身の周囲に風の円を描く。だがそれは意味をなさなかった。足元の感覚がなくなる。片足だけ地面に飲み込まれた若草は体勢を大きく崩すことになる。
「…L5『処活宮』。…さぁ、どう防ぐ若草!。」
体勢を崩した若草に追い討ちがかかる。若草の左右から土の壁が迫り上がり若草を挟殺しようとする。
「…ぐっ……..この魔法は…剣君が使っていた……なら…まずい…」
咄嗟に両腕を広げ壁に手をつく若草。安定しない足元故に腕にも力が入らない。若草は以前見たこの魔法を思い出す。そして自分の魔法では第3の楔が打たれれば成す術を失うことを理解する。
「1の楔。」
若草の体に鎖が巻きつく。若草は遅延を出し惜しみせず発動。鎖によって体が完全に固定されることを防ぎ続ける。だがそれは多大な労力を要する。手札を切り続け、守勢に回るしかない。
「……まだだ。…まだ手は…」
楔の完成を妨げながら若草は手を打っていた。足元に土属性の魔力を集中。少しずつ足場を固定していたのだ。
「…そうだよな、お前なら…この魔法相手にも抗う。だから…俺が直接終わらせる。」
霧島が若草に歩み寄る。若草が展開していた風の壁は霧島を止めることは叶わない。処活宮と格闘する若草の目の前に霧島が立つ。
「…ふっ‼︎。…うあぁぁ‼︎。」
若草の腕の先右手には蒼炎、左手には台風のような圧縮された風の塊が出現。右足も膝まで浮き上がっていた。霧島が言う通り若草はこの状況すら打開仕掛けていた。
「…これ見せるのは余りにも隙が多過ぎて、しかも威力が高すぎて封印してきた魔法だ。若草、お前に使うのが相応しい。」
霧島が体の前で両の手の平を合わせる。相撲の塵手水のようなその動きはその場を支配する。
「…この戦いを見にきている奴らに警告する。俺の視界から消えた方が良い。」
突然の霧島の警告。当然観戦していて生徒たちは戸惑いを露わにする。だが数名は事態の重さを理解していた。傍若無人、他人のことなど気にかけない男が態々戦いの途中で発した警告。その言葉の重さを。
「…第3の銃は俺自身が銃身だ。今の俺が出来る最高の魔法を見せてやる。」