相応しい戦い
「…ふっ、…俺の狙いを少しづつ少しづつ自分の意図した方向へ向けさせる。それも俺に気付かれずにだ。そんなことが出来るのはお前だけだ。」
体中に傷から血を流しながら霧島が言う。これだけのダメージを食らっていながらその表情は晴れやかなものだった。瞬く間に代替によって傷は塞がる。
(…見た目では分からないけど…あれだけの魔法をまともにくらっている。相当量の魔力を消費しているはず。)
「…ここで攻撃の手を緩めるのは…あり得ないよね。」
若草の体から旋風が巻き起こる。若草の身体の動きに合わせて地面に亀裂を入れていく。更に地面からは腕のようなものが何本も出現、霧島に襲いかかる。
「かっ…!。…お前の非情さ、嫌いじゃねーなぁ!。」
霧島はホルスターから銃を抜くと次々と土の腕を破壊していく。
(…ラチが開かないな、…いや、これが狙いか?。…ふむ、確かに俺の魔力は全快の半分ぐらいしか残ってない。)
若草の行動の意味を考える霧島。霧島は気づいていない。この行動、いや考動も若草に操られていることに。普段の霧島ならこんなことは考えない。だが日頃の若草への警戒と先程罠に嵌められたという事実が霧島の思い切りの良さを消していた。
「考え事かい?霧島君。…感心しないなぁ。」
「…⁉︎、…このっ……偽物…!。」
当然若草は見逃さない。いつのまにか霧島の目の前まで迫っていたのだ。霧島が右手の銃を空中で離す。落下する銃。若草の視線が一瞬そちらを向いた瞬間左手に持つ銃の底で若草のこめかみに打撃を加える。奇襲を受けたとはいえ速すぎる反応。若草は全くガード出来ずに攻撃を受ける。だが動揺したのは殴った霧島の方だった。
「…君相手に無用心に近づく程自惚れていないよ。」
その声のするのは霧島の後方。だが霧島はそれを確認することはしない。その時間を全力の防御に当てたのだ。そしてそれは最上の選択だった。目の前にいた若草だと思っていた物が閃光を放ち爆発したのである。
「…くっ…またか。…だめだ、あいつの術中にハマってる。…」
下からそびえ立つ土壁によって身を守った霧島。だがダメージがないわけではない。それに銃を一丁失ってしまっている。霧島は自分の手首に齧り付く。余程強い力で噛んでいるのか腕からはポタポタと血が滴り落ちる。
(…冷静になられると厄介だ。仕掛けるなら今。)
その様子を見ていた若草は大樹君を三体錬成。それぞれが土、風、火を腕に纏い交差する様に駆けながら霧島に接近する。
「…若草相手だから…上がってたのか?。無様を晒すなよ。俺は誰だ…霧島飛春だろ。なら…やることは一つ。どんな策だろうと真っ向勝負でぶち殺す。」
接近する若草達三体に向けて弾丸を放つ霧島。その動きには先ほどまでの迷いはなかった。着弾した三体は全て瓦解してしまう。この中に若草の本体はいなくなっていた。それを見ても反応がない霧島。
「…ゴタゴタ考える必要なんてねぇーよな!。『無慈悲な殲滅』‼︎。」
辺り一帯に弾幕を落とす霧島。するとある一点に違和感を感じとる。そこに弾を集中させると若草が大樹君で身を守りながら飛び出してくる。
「出てきたな、若草!。なら…『魔弾・静流凪』。」
霧島が青い弾丸を放つ。その後弾丸は撃たれた直後からその姿が見えなくなる。
「…⁉︎…見えない…弾丸…くそ…」
霧島の見えない弾丸に対して若草は魔力で壁を貼るしかなかった。それによって感知し、更に魔法を発動する。元々魔力量が多くない若草にとってロスが大変大きい防御方だった。霧島が自分の魔力切れを狙ってくるかと警戒を強める若草だが次弾が放たれる様子はない。不思議に思った若草が霧島の顔を見ると笑っていたのだ。
「…なんてな、…今のは冗談だ。お前が姿を隠すからその意趣返しだ。俺たちの戦いには相応しくねぇ。」
「良いんですか?今のを続けられると僕としてはかなり苦しいんですけど。」
「苦しいだけでなんとかするだろ?お前なら。だったらどうせ無駄なんだよ。その過程が。だから…俺は俺のやり方で蹴りをつけることにする。」
そう言って霧島は残っていた左の銃も手放す。そしてフリーになった両手をほぐす。
「お前も出せよ、あの1年と同じやつ使えるだろ?。」
「これのことかい?。…『火拳』、まぁ彼ほどの応用は効かないけどね。」
「これから俺が見せる魔法はまだ誰にも見せたことはない。八神重には一瞬見せようか迷ったがな。」
「…俺に手を組ませるなよ?。」




