自分を囮にする男
「芽吹き、そして…育て!。『湧き上がる新芽・神兵』。」
若草が地面に手をつき魔力を込める。次々と増えて成長する大樹君。だが今回はいつもと様子が違った。普段なら若草と同じサイズになれば成長は止まる。
「…そう来たか。…確かに俺相手に数量は意味は無いが…。若草、お前の魔力量ではこんなもの…使えるはずが…」
霧島の眼前には約4メートルまで成長した大樹君が霧島を見下ろしていた。
「そう、普通のルールなら使えない。だけど今回はあらかじめ魔法を体に封じれる。このルールが決まった日から構想は出来ていた。さぁ、ほぼ今回の為だけの魔法を味わってよ。」
今回の戦いでは若草と霧島の事前の取り決めにより全てが許可されている。普段とは違うルール、それに則った正しい奇抜な魔法を若草は発動したのだ。若草が右手を霧島に向ける。放たれる大豪炎。そしてそれは一斉攻撃の合図だった。
「…っち、でかいってことは機動力がないってことと同義だ。なら…的にしてやるよ!。『魔弾・六方晶金剛』‼︎。」
霧島から最高硬度の弾丸が神兵に向かって放たれる。そもそも大樹君ですら回避が難しい弾丸は巨大な神兵には回避不可能だった。普通は。大樹君が二体空中に飛び出し弾丸に貫かれる。飛び出した瞬間には体を硬化させていた為二体を貫いたところで弾の軌道は変わってしまっていた。
「そうさ、あれだけ大きければ当然的になる。今までどこに撃つか分からなかった君の行動を緩く縛れる。そこまでが第一フェーズ。攻撃が来る場所がわかれば…盾も配置しやすい。囮を囮にする。そして…侵略すること…火の如く。」
神兵が右腕を振り下ろす。更に地上では霧島を取り囲むように接近する大樹君、遠距離から魔法を放とうとする大樹君の二手に分かれて霧島を追い詰める。
「…いいぜ、来いよ。俺はどんな状況でも…退かねぇーから!。」
霧島が両手の銃から無数の弾丸を放つ。常に体を回転させながらも正確な銃撃で確実に大樹君を屠っていく。
「テメェにはこいつだ。『決別の一撃』。…L5『深々龍水』‼︎。」
神兵の攻撃に対しては決別の一撃を放つ。着弾すると神兵の腕が消し飛ぶ。更に神兵の足元が崩れバランスを崩す。
「…膝を着かせたら脅威でもなんでも無い。そんで次は…L5『天壇星球』‼︎。」
霧島が重を二丁ともホルスターに収める。そして霧島の手にはある武器が握られていた。長い枝、その先端から鎖が伸びておりその先には棘で覆われた球体が着いている。俗に言うモーニングスターであった。霧島が肢の部分を持ちゆっくりと振り回して始める。徐々に速度が上がり鎖も伸びていく。鎖の部分は土属性の魔力で生成されており範囲に限りがない。
「…さぁ、一掃だ!。」
霧島が体を外らせるように大きく仰反る。そして次の一周で大樹君達は両断されていた。鎖によって上半身と下半身が断ち切られる。そして星球の先端が若草へと向かう。
「…これは…想定外だ。なんて破壊的な魔法…。だけど…まだ一体残っているよ。」
星球が迫る若草は魔法を詠唱していた。全ての大樹君が霧島に破壊される間も絶えず詠唱を続けていたのだ。霧島も当然それに気付いていた。遅延魔法の名手の若草が敢えて詠唱する程の何か。警戒しないわけがない。だが…それも囮。自分に対する霧島の警戒すら若草のプランに練り込まれていたのだ。霧島の背後で神兵が覆い被さるように飛びかかる。
「…やられたか。…」
霧島が神兵に飲み込まれる。
「…五指解放、…集約と螺旋。…なんちゃってL5『華龍翼撃』。」
若草の右手、その指の先から高濃度の魔力が迸る。圧縮を重ねた魔法の同時発動。実は澪達との戦いで見せた火拳の真似事もこれの為の練習に過ぎなかった。あれは一つの腕に魔法を積載する。だが今回は5本の指それぞれに魔法を積載する。その威力は当然計り知れないものとなる。螺旋状の火線が神兵に触れる。
『ドオォォォォォォ….ン…』
闘技場全体が揺れる程の威力。神兵も触れた瞬間粉塵となり触媒と化す。放った若草でさえ爆風に押されて体勢を大きく崩していた。この時誰もが若草の勝利を確信していた。見物に来ていた残りの七星や、現役の国家魔導師である学園長でさえ。唯一の例外は若草だけだった。
「…参ったな。…撃たれちゃった。」
若草の右膝が赤く染まっていた。膝を撃ち抜かれていたのだ。それはつまり何を意味するか。
「…はぁ、はぁ、…こんな楽しい戦い終わらせてたまるかよ。…」
最強の名を背負う者が血に染まりながら、だが凜然と立っていた。




