ペースを握るのはどちらか
「…うーん、これは良くないな。…どうするべきか…。活路を拓くのは…自分の体か。」
剣が錬成した風纏螺旋槍に巻き込まれた大樹くんを見た若草は自らの炎の灯る腕の握りを確かめながら呟く。
「そろそろ体があったまったぜ。まだ俺を侮るような戦いをするなら…何もさせねーで終わらせてやるよ。」
剣が槍を構え突撃する。槍と体に纏う風が独特の気流を生み出し剣の動きを加速させる。若草との動線上にいた大樹くんは悉くなぎ倒される。
「…侮るか。…そんなつもりは…毛頭ないよ!。」
若草の眼前まで迫った剣は大きく振り上げた槍を若草に振り下ろす。跳躍の力も借りたその一撃は槍がしなって見えるほどの速度であった。だがその一撃は若草に止められる。風を纏う左腕、その手首より先にのみ魔力を集中。風に裂かれることなく掴むことに成功する。
「…触れてくるか。だが…ここからだ!。」
若草に槍の穂先を掴まれた剣。その瞬間に持つ手を滑らせ肢の部分を使い直線的に一気に距離を詰める。
「…ゼロ距離だ、食らえ、L 5『氣風天戒』‼︎。」
若草の懐に着地した剣、その右手に早く台風の卵が発生していた。渦巻く風は極限まで圧縮されており放たれる時を待つのみだった。そしてその右手を若草に向けて構えた。
「…来たね、剣君。…ようこそ、僕の領域へ。」
「…な⁉︎…まさか…!。」
ちらりと若草の顔を見た剣は全身に悪寒が走る。そしてその予感は確信へと変わる。剣の右腕の肘を下から膝を当てがうことによってかちあげられる。それによって氣風天戒は上空へと打ち上がる。この時点で剣の胴体は無防備なものとなっていた。
(…まさか…釣られた!。…あの無数の木偶全てが俺をここに呼び寄せるための罠だったのか!。…ガードが間に合わ…)
「…彼のとどっちが強いかな?。」
「…ぐはっ…‼︎。…………あちぃ、…。」
剣の腹に若草の火拳が叩き込まれる。くの字に折れて吹き飛ぶ剣。しかし若草の攻撃はそれでは終わらない。待っていましたとばかりに殺到する大樹くん。
「…がっ⁉︎…くそが!…まだだ!L 5『星華火』!」
地面を転がる剣のだが自分に押し寄せる大樹くんを見て地面に伏しながらも星華火を唱える。分裂した火球が大樹くんを次々と焼き切るが剣に休息の時は来ない。
「…僕は君を警戒している。だから猶予なんて与えないよ。」
変形する地面。棘となって剣に襲いかかる。体を起こし回避する剣だがダメージが抜けず険しい顔つきになる。
「…はぁ、はぁ、…くっ…そ、殴られたとこが熱い。何しやがった。」
「僕の魔力を残した。君の回復を阻害するためにね。」
「そこまでやってくれるとはな。…(…やはりペースを握られると一瞬でひっくり返される。…なんとかもう一度…主導権を握り直す。)…その為には…あれしかねーな。」
「…はぁ、はぁ、…L5『虚空』。」
剣を中心に風が発生する。警戒する若草だが特に変化は感じられない。
「…今のはなんだったのかな?。」
「流石のあんたも知らなかったみたいだな。虚空は風属性のLevel 5の中で唯一戦闘用じゃない魔法だ。」
「Level 5なのに戦闘用じゃない?。」
「あぁ、そうだ。効果は単純、風の壁によって四方八方を覆うだけだ。本来は大規模災害とか疫病の隔離とかに使うんだろう。」
「…疫病の隔離…。…まさか…」
「はっ!気付いたか!そうだ、この中ではな、ある物が有限になる。…酸素だよ。来い、『鬼王の槍斧』‼︎。長くても10分、それがこの戦いの終わりまでの時間だ!。」




