見届けた戦い 澪
「おい、おい、マジかよ⁉︎若草!お前負けんのかぁ‼︎。俺以外に負けるなんて許せねーぞ!。」
霧島が大声をあげる。目の前では若草が水圧によって地面に押しつけられそこに2本の剣が迫っていた。
「うるせーな、黙って見てろよ。…俺でも信じられねーけどよ。矢沢、あそこまで計算していていたのか。」
大声をあげる霧島にこちらも大声で怒鳴る剣。だが剣にも霧島が叫ぶ理由はわかる。自分の想像を超えた若草を更に上回り地に堕とした澪。これまでの澪にはなかった周到さを感じていた。
「…澪ちゃん、俺たちと出会ってから変わったよね。前まで騙すとかブラフとか使ってなかったのに。剣の性格の悪さが移ったんじゃない?。」
「あぁ?お前の小細工する癖が移ったんだろ。」
「…………」
「…………」
沈黙の後胸ぐらを掴み合って殴りかかろうとする2人。
「それ以上暴れるなら撃つぞ。…座ってろ!。」
霧島が持つ銃の銃口を向けられて大人しく座り直す。
「…ギリギリだな。なんとか掴んでいるが常に手のひらを斬られてるから魔力も消耗する。そもそも握力が尽きれば終わりだ。」
3人の眼前では体を反転させ仰向けになった若草が振り下ろされた双剣を手のひらで受け止めていた。霧島が状況は若草が悪いと分析する。
「いくらあの人が鍛えててもポジションは圧倒的に不利だな。矢沢は上から圧力をかけられる。」
「そうだね、…あれ?…右手は…火属性、左手は…風か。…近接なら土属性も使った方が良いんじゃ。」
「そうは言っても腕は2本しかねーだろ。土を纏ったら膂力は出るかもしれねーが動きが鈍るしな。そこんとこ気にしたんじゃねーか?。」
「…いや、八神重、お前は良いところに気づいたかもしれんぞ。もし若草が意図的に腕を炎と風にしたとすれば…残りの土は恐らく…」
剣と重の会話を聞いていた霧島が何かを察する。その直後3人が目を見張る出来事が起こった。若草の右足の先。爪先の部分に土属性の魔力が集まり硬化する。そして勢い良く差し上げられた足はオーバーヘッドの要領で澪の後頭部を殴打したのだ。響く鈍い音。澪の体からは見るからに力が抜けていた。
「…痛っ、…声出ちゃった。…あれは不可避だね。完全に澪ちゃんは若草さんの上半身しか視界に入ってないし前のめりになってたから。」
「あぁ、それに矢沢の体が自分の正面にくるように腕で調整してやがった。しかもご丁寧に最後何か言ったんだろうな。矢沢が一瞬止まってた。」
「ありゃ終わりだろ。あの不意打ちで脳が揺れてる。正常な感覚は無くなるだろうし魔力も大きく削られる。…若草の勝ちだ。…やはり奴しか俺の最後の扉になり得ないか。だがあの女、矢沢澪も悪くない。帝との戦いは面白いことが多いしな。…伝言だ、いつでも相手をしてやる。そう伝えておけ。」
最後の一撃。それを見た霧島は若草の勝利を確信してこの場を立ち去る。その際澪を認める発言を残していった。
「…っち、勝手な野郎だな。おい、重、下に行くだろ。」
「うん、当然だよ。2人とも魔力を消耗してるから満足に動けないだろうしね。」
「…勝てると思うか?。」
「…分からない。俺のアンデンティーの火拳はたぶん通用しない。火燕も対策されている時思う。というより大樹さんに勝つには今日澪ちゃんがやったみたいに見せたことが無い魔法を使わないとダメだ。」
「あー、そりゃそうだな。俺の壊刀は当然として槍斧も見せてる。弱点もバレてるだろ。」
「…強いよね。」
「悔しいがな。」




