若草の一面
やってきた第二希望の一戦目。それぞれの星を持つ者と求める者は各闘技場に散り、開始の瞬間を待っていた。ここ第五会場でもそれは同じ。挑むのは矢沢澪、挑まれるのは若草大樹。この2人は朝ご飯も共に食べ一緒に寮を出てきた。それは闘技場で観戦する2人も一緒である。
「…どっちも落ち着いてるように見えるね。」
「お前の目は節穴か?…矢沢の方は張り詰めてるだろ。表に出さないようにしてるけど…かなり気合が入ってる。」
重の感想に剣が椅子の上で大きく仰け反りながら返す。この1週間剣は自分の鍛錬の時間を減らしてまで澪に付き合ってきた。それは今までの澪とは決定的に何かが違っていることを感じ取っていたからだ。
「…ふーん、あの1年って水帝なんだよな、…1学年に帝が2人とはお前らの学年はおもしれーな。ちょっと羨ましいぐらいだぜ、2年で俺の興味を惹くのは若草だけだからな。」
2人の後ろの席には霧島がいた。前の座席に足を乗せ頭で腕を組んでいる。
「…なんであんたがここにいるんすか?。」
「それはお前が俺に挑まなかったからだろ。ってかお前だけじゃねーな、俺に挑む奴はゼロだぞ。なんだよ、それ。だから暇つぶしに見物に来たんだよ。イラついたから闘技場一個壊したら使用禁止になっちまったしな。」
剣の質問に身を乗り出して答える霧島。霧島が対戦を希望した中に当然剣も入っており目論みが外れた形になる。
「闘技場を潰したって…。…」
霧島の吐いた言葉に引き気味になる重と剣。この学園の闘技場はかなりの強度の魔法にも耐えれるように設計されている。それを破壊した霧島には畏怖さえ覚える。
「…それで、八神重。お前らが揃って若草に挑んだのには理由があるんだろ?聞かせろよ。」
「理由ってほどのことじゃないですよ。ただ俺たちの成長を見せたかっただけです。大樹さんを脅かすぐらいには強くなったと思っていますから。」
「…ふーん、…若草を脅かすねぇ…俺でもあいつの底は知れないのにか?。…確かにお前は中々にやる、そこの火祭剣も同じくだ。だけど…お前ら…若草を舐めすぎだ。」
「この学園の最強の魔導師俺だが…最高の魔導師は若草だ。向いてるベクトルが違うだけで俺よりもその才能は大きい。そんな男にお前ら勝てるのか?。」
「…随分あの人のことを買ってるんだな。」
「当たり前だ、この学園で俺ほど若草を買っている男はいない。お前らは知らねーんだよ。若草の狂気を。あの時のあいつは…ふっ、…やっぱ辞めた、お前らに言うの。お前らは優しい若草先輩の背中だけ見てればいい。それだと絶対に追いつけないけどな。」
「なんだよ、それ…。」
霧島が勿体ぶったことにヘソを曲げる剣。しかし重はある想定を立てていた。以前から若草に関する話は随所で聞いていた。それを複合することによって導き出される答え、それは、
「あの時って…大樹さんが第五輝に就いた時の話ですか?。」
「…あぁ?お前、聞いたのか?。」
「いえ、ただの想像です。でも当たりだったみたいですね。」
「…はぁ、っち、そうだ。若草はその時まで優秀だったが異質ではなかった。その時を境にあいつは孤立することになる。優れすぎた者は淘汰されるんだ。俺とかもな。表面的にはびびって何も言われねーけどな。強者は群れれないんだよ。」
「何があったんだよ。」
「それは言えねーな。聞きたきゃ本人から聞け。」