官寺の秘策
「…古より天からの裁きと呼ばれた雷をその身に下ろしました。これが今の俺の戦い方です。」
地面に伏す官寺に夢坂が告げる。勝利はほぼ手中に収めた。だが雷帝は解かない。油断することの愚かさも学んだから。それに気がかりもあった。
(…官寺さんが余りにも素直に電撃をくらいすぎている気がする。前に戦った時ですら少しは回避できていた。この人にはそれが出来るだけの経験と勘があるはずだ。…俺へのカウンターを狙って回避しなかった序盤はわかる。そもそも土属性のエキスパートである官寺さんならある程度は受け流せるだろう。…でも後半も構わず避けなかった理由はなんだ?。反応出来なかっただけか?。)
小さな疑問はやがて大きな違和感へと姿を変える。一つ一つの要素を審査していく中でそれは確信へと変わる。
「…どうした?夢坂、そんな狐に化かされたような顔をして。」
考え込む夢坂に声がかかる。その声は大地にしっかりと足を下ろした包み込むような声ながら今最も聞きたくは無い声だった。
「…元気そうですね、官寺さん。俺の雷どこにやったんですか?。」
見たところ官寺は所々煤けているものの体に痺れなどがあるようにも見えず何よりダメージを感じられなかった。
「いくら俺が先輩だからといってそれは言えんなぁ。撃ってみればわかるかも知れんぞ?。」
(…分かってる、罠だ。確実に何かある。だけど…)
「俺だってこの星を背負っている。そこに学年は関係ない。星を持つ者は挑む者の全てを正面から受け止めるべきだ。おれとやった時あなたはそうした。ならば俺も…乗っかってやる‼︎。『紅雷』‼︎。」
官寺の挑発ともとれる発言。夢坂はそれに乗る。勿論罠の可能性が高いことも承知の上。だが七星の座を預かる者として逃げる選択は出来なかった。紅い雷が地を這い官寺へと向かう。
「…もう隠す必要もないだろう。それに…食らう必要もない。」
官寺へ向けて直進していた電撃が折れ曲がる。そして官寺の2メートルほど右の地面に吸い込まれる。
「…今のは…なんだ?。…俺の雷を曲げた?。そんなバカなことが…」
「自分の目で見た物を信じられないのか?。」
「…『激雷の破魔矢』。」
夢坂が複数の雷の矢を上空に放つ。放物線を描いて落下するその矢は官寺に吸い込まれるように命中するはずだった。しかし全てが官寺から逸れる。
「…土属性…それにわざと食らった俺の雷…。まさか…帯電させているのか。そこにある何かに。それを…避雷針に。」
夢坂が出した結論。それは到底信じられるものではなかった。しかし目の前の現象はそうとしか説明できない。
「おぉ、早かったな。そうだ、俺がお前の雷撃を食らい続けたのは体に電気を貯めるためだ。その貯めた電気を元に帯電する避雷針を作ったんだ。…ここまでが俺の作戦だ。お前の個性である雷を俺は封じる。」
「…っ、まさか俺の遠距離を全て潰されるとは思ってもいませんでした。だけど!。」
夢坂の姿が消える。次の瞬間にはその右腕で官寺の顔面を殴りつけていた。
「…この速さは絶対なんだ。だから俺はまだ負けてない。」
「そうさ、お前はまだ負けてない。俺の目的は初めから近接に持ち込むことだった。…お前、あれだけ雷を使って…どれだけ魔力が残っている?。…さぁ、打たれ強さに定評のある曇天の黒鉄との消耗戦だ。」
夢坂に殴られた官寺は首の力だけで夢坂の拳を押し返す。その力の大半を失った雷帝と耐久力が売りの黒鉄。その戦いは実にシンプルなものになった。
「…ふぅー、…嫌になるな。」
夢坂の苦笑いが今の状況を如実に表している。大技である雷神の大槌や雷電の裁きを使った為魔力の残量は心許ない。これからの殴り合い、いや殴る夢坂と仁王立ちする官寺に分かれることになるだろうがそのことを考えると厳しいものがある。
「さぁ、来い。」
今回の戦いで最も差が少ない戦いの決着は近い。




