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姉弟喧嘩

「…はぁはぁ…」


「どうだ?あんたが怠けていた間に俺達の間にあった差はここまで埋まった。」

 蒼い戦姫となった葵は大きく息を乱していた。目の前の男、実弟である将の動きに本来の能力を大きく封じられているからである。


「…L 5『土…」


「させないって。」

 葵が魔法を唱えようとするが将が高速で接近して首を締め上げる。その間蒼炎で鎧は焼かれるが気にする事なく地面にたたきつける。


「熱っ、…だけどもうわかっただろ。俺はあんたが魔法を唱えるのを待つつもりはないし、なんならここで終わらせる。」

 将は葵の顔面にその拳を振り下ろす。


「…ぐっ…ぐっ…がっ……がっ……」

 葵がここまで将にやられるのはには理由があった。将は葵の詠唱を完全に止めている。銀城葵はその才能だけでここまでやってきた女である。つまり技術が圧倒的に足りない。付け焼き刃でコントロールを身につけ蒼炎をものにしてはいるがそれでも本来七星レベルなら出来ることができない。まず無詠唱及び遅延。よって魔法の手がかりを潰されると後手にまわる。そしてそれを打開する体術もない。魔導師なら当然にぶち当たる壁に最近まで当たらなかった女にそんな必要などなかったのだから。


「…はぁ、はぁ。…今まであんたがこうされなかったのは魔導師って生き物の性故さ。自分の魔法に自信があって敵の魔法を見てみたいって欲求がどこかにある。そんな相手だからあんたの魔法の発動自体を止めるって敵に出会わなかったんだ。それとこの七星って名前にも助けられたな。まさか遅延も無詠唱も出来ないとは思われなかった。…所詮あんたの本質は何も変わっていなかったってわけだ。」

 極度の対人戦の経験の無さ、そしてその葵の魔法発動の癖を完全に研究したことが重なり葵はここまで圧倒されているのだ。そして理由は他にもある。


「…ごめんね、将。私は…」

 葵自身のこの戦いに対するモチベーションの低さである。口では勝つと宣言したが思うように体が動かない。親善会で初めての敗北を知り、負けた者の痛みを学んだ葵。本来なら一桁の年齢の時に学ぶ心の機微を今まさに学んでいる葵には実の弟にしてしまった自身の過去に行いを受け入れるのは難しい。無意識に蒼炎は弱くなり体の抵抗もなくなる。


「…はっ、これだけ待って損したぜ。終わりだ…姉さん!。」

 将が止めとばかりに魔力を込めた拳を叩き込もうする。


「…姉さん?……まだそう呼んでくれるんだ。」


「…ち、違う!。俺はあんたのことなんて…!。」

 将の口をついて出た姉さんと言う言葉。その言葉は葵の心に火をつける。自分が壊してしまった姉弟関係。それでもまだ姉と呼んでくれるなら。

「…燃えてきた。将とはまだ話がしていたい。私のことを分かって欲しいし、将のことも知りたい。」

 それまで死に体だった葵の眼に力が戻る。蒼炎は勢いを増し将の鎧を溶かす。


「…くそっ、…離れ…」


「…L 5『緋矢の真弓』。…私の炎を矢に変える。」

 距離を取ろうと下がる将。だが葵は追い討ちをかける。体に纏う炎から生成した矢を放つ。飛来する矢を剣で斬る将。しかし斬られた矢は分裂して更に狙い定めてくる。


「…その矢は私の管理下にある。どう?私も少しは成長したでしょ。」


「…くそっ、この……なんで俺の体に当てない!。この威力だ、当てればそれで勝てるじゃないか!。…まだあんたは俺を馬鹿にするのか!。」


「違う。将には今の私を見てほしい。さぁ、おいで。久し振りに姉弟喧嘩をしよう。」


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