燃えない戦い
「…くそっ!、何故だ!。俺は十分に対策を積んだ。委員長の魔法は全て知っているし、散々映像でも見た。なのに何故!。」
第四輝をめぐる戦いは地面に伏し拳を叩きつける挑戦者とそれを見下ろすタイトルホルダーとに分かれていた。
「…それはその対策とやらが不完全だったからだろ。全然十分なんかではなかったんだよ。それは今の状況を見れば誰でも分かる。君はもう動けないし、私は何もなかった。つまり君は七星を舐めすぎだ。」
東堂の放つ魔力には一切の欠如はない。完勝であった。
「…くそくそっ、知っていた、委員長がダメージを食らえば魔力が回復すると。だから一撃で決めるつもりだったのに。…それを…」
「…私が痛みに対して享受的とは言っても…見え見えの攻撃などくらわないよ。それに余り気持ちよくなさそうだったしね。密度も殺気も全然足りない。だからあの魔法も使えなかったよ。」
東堂の持つ魔法の中で間違いなく最強の魔法。崩れ落ちる境界。張り巡らせた風の糸、任意の糸と糸の間に面を生じさせるその魔法は無属性の使い手の李白でさえ動きを完全に止められた魔法である。その発動には東堂自身の魔力だけでは足りず痛みによって充電しなければならない。今回その魔法を使う気にはならなかった。
「…そもそも反則じゃないか。なんだよ攻撃すれば回復するって。そんなの勝ち目がない。…清廉潔白であるべき風紀委員長がそんなズルを。」
完敗した降旗はぶつぶつと呟き始める。その内容は聞くに耐えない批判。ここで自分の非を認められない者に成長はない。降旗は自分でその価値を落とした。
「おいおい、自分の不甲斐なさを他人に転嫁するなよ。これはキチンとルールに則っている。非難されるいわれはないぞ?。さっきも言ったがお前の対策が不十分だったのだ。」
「…なら!どうすれば良かったんですか!。」
「…自分で考えないと意味はないんだが…。お前の嫌いな若草の話をしてやろう。奴と私は一度戦っている。非公式だがな。勿論条件はお前が勝ち目がないと言ったのと同じだぞ。」
「…いくら若草でも…」
「負けたんだよ、私は。」
「な⁉︎。…一体どうやって。」
「私を魔法で拘束した。それだけだ。」
「拘束?。そんなことで。」
「あぁ、そんなことでだ。ただし期間は三日間だ。あいつはその為に食料を持ち込んでいた。非常に丁寧な魔法で私にかすり傷一つ付かないように全身を拘束し続けた。…最後は私が根負けしたよ。」
「…そ、そんなの反則だ!。魔導士を目指す者としてそんな恥知らずな真似は出来ない。」
「…なら聞くがここで地面に倒れているお前と私に勝った若草。どちらがみっともない?。それに闘技場に食料を持ち込んではいけないという規則はないし、どれだけの期間までというのも書かれていない。誰もが想定していなかったからだ。つまり若草は歴代の生徒、教諭、設立者達の想像を超えたんだよ。」
「………………」
東堂の台詞に言葉が詰まる降旗。
「対策をするというのはそういうことなんだ。若草は私の魔法を研究して勝ち筋を探りその中で最も勝率の高い選択をした。その選択を遂行するための準備も万全にした。だから勝利した。極論で言えば結果なんだよ。そこに至る道を若草は柔軟に見つけ出した。そしてそれがお前に足りないものだ。」
「…っ、くそ…俺は認めない。そんなの…認めない。」
東堂の話を聞いた降旗は依然納得せずふらつく体を無理やり動かして闘技場をあとにする。
「ちゃんと休むんだぞ!。お前は副委員長なんだからなぁ!。」
「…ふぅー、…これだけやって分からないなら、その時は本当に任せられないな。…そう思うだろ若草!。」
降旗を見送った東堂がため息をつきながら言う。東堂は今回の戦いで降旗がその凝り固まった考え方を改めるようなら次期風紀委員長に指名するつもりだった。しかし思うようにいかず精神的な疲れがでる。
「…東堂さん、あの言い方だと彼の怒りがまた僕の方へ向きそうなんですが。」
「その時は蹴散らしてくれて構わない。…それとも降旗程度では燃えないか?。」
「そうですね、…僕は最近結構猛っていると自覚しています。…やり過ぎてしまうかもしれないですね。」
「お、おう、そうか。まぁその時はその時だ。…その血の滾りの原因は君の所の3人かな?。それとも久し振りに霧島と戦うからかな?。」
「情報が早いですね。…んー、4、6ですね。勿論今上位三星に挑んでいる重君達の頑張りに刺激されているのもありますけど…なんていうのか、こう、挑むっていうのに体もワクワクが止まらないんですよ。頭がずっと回っている感じです。」
「…私はそんな感じになったことないから分からんが…良い目だ。その視線に見つめられると…興奮してくるな。」
「それは僕には分かりませんね。」




