第三輝と澪
「…あ、…」
「あ、…。」
「…今日はよろしくお願いしますね。矢沢澪さん。」
「こ、こちらこそお願いします。」
「………」
「………」
澪と真利谷は闘技場につく前に出会っていた。これから戦う相手とその道中で鉢合わせるのはなんとも気不味いものがある。定型的な挨拶を交わした後2人は無言になる。元々口数が多い方ではない真利谷と人見知りの気がある澪の間を沈黙が支配する。
「何故私を選んだのですか?。貴方と私の相性は良くは有りません。それに1度…」
「…重さんと剣さんは一度負けたくらいでもう一度挑むのを辞めたりしません。だって勝った相手としか戦わないなら成長を実感出来ないから。勝てなかった相手に勝利した時それは確かな成長を感じる瞬間だと思うんです。」
「…それはつまり…私に勝って成長を実感するつもり、ということですか?。」
真利谷の放つ雰囲気が少し険しくなる。
「…はい。私は今日は第三輝真利谷氷雨さんを倒しにきたんです!。」
「ふふっ、…(あの時意識がないまま私を攻撃しようとした。その時から非凡なものを感じていましたが…あの3人の中で心が1番強いのはこの子かもしれませんね。)そうですか。ですが私も誓いを立てています。…負けるわけにはいきませんよ。貴女を全力で叩き潰すことにします。」
真利谷の頭の中ではかつて澪を圧倒した時のことが思い出されていた。あの時は力足らずの印象を抱き心を砕きにいったが最後の最後でその根底にある鈍い強さを垣間見せた。黒鉄のような重厚な粘り強さを澪の心に見たのである。真利谷は戦いに於いて最も大事なのは信念だと確信している。信念なき刃は鈍となり、鋭さを失う。澪の中には揺るぎない信念が秘められていると認めていた。
「さぁ、舞台にあがりましょう。と言っても私達にはあまり意味を為さないかもしれませんが。」
話しているうちに闘技場に到着した2人。既に教師は到着している。真利谷の言葉に従い澪も舞台にあがる。
「それでは第三輝真利谷氷雨対矢沢澪の決闘を開始します。」
「…『水帝』‼︎。…『領海の道汐』。」
「『氷帝』。『白銀の世界』。」
開始の合図と共に2人は帝となる。これより属性を持たぬ攻撃は無意味となり、お互いにお互いの存在に干渉し合う戦いが始まる。2人を中心に青い波動と白い波動が広がり領域を主張する。
「…へぇ、均衡しますか。以前より空間支配の能力が上がっているようですね。ならば…『氷装』。」
真利谷が氷の鎧を纏う。何もない空間から氷の槍が出現しその手に握られる。
「…落ち着いて。…私は決めたんだ。」
それを見た澪は両手を前に掲げ空間を捻るように腕を使う。
「…何を…。…これは⁉︎。…」
訝しむ真利谷だがすぐに異変に気付く。自分の支配領域に異物が混ざっている。否、空間が螺旋を描くように外側から削り取られている。
「…先輩の魔力を頂きました!。…『水姫の戦鎧』。私は…どんな手段を使ってでも勝利します。」
澪の体から淡い光が漏れる。自身の魔力に加え真利谷が空間に展開している魔力を強引にその身に宿したからである。本来属性の違う魔力を取り込むことはいくら帝といえど不可能である。しかし今回は氷と水。類似する属性故澪は力尽くでそれを可能にした。
「…ぐっ、…(思ったより…厳しい。でも…これが私が取れる中で最も勝算がある)。…尽きる前に倒し切る!。」
ただ勿論無条件とはいかない。その身に過剰な魔力を宿すことは諸刃の剣である。この戦法を選択した時点で澪の狙いは1つ。超短期決戦である。
その刃が届くのが先か自壊するのが先か。澪がとったのはそんな大博打。
「…貴女の覚悟を甘くみていました。…私は全力をもって…長期戦に持ちこまねばなりません。」
そんな澪の行動に真利谷は氷帝にもかかわらず冷汗を流したのだった。




