ゼロ距離の意地
重とルドガーは分かっていた。次の一連のやりとりで決着が着く。いや、着くまでこの場を離れない。一歩も動かない。プライドが体の動きを制限する。
「…楽しかったよ、重。まだまだやり合いたいくらいだ。」
「俺もだよ、ルドガー。やっぱり競い合うのはやめられない。」
「だけど俺はこれからのユーロを背負ってる。だから譲れない、負けられない。」
「俺は…そんな重荷を背負ってない。先輩達が責任を背負ってくれてるから。けど俺を作戦の要にしてくれた大樹さん、そしてそれを認めてくれたみんなの為にも勝たないといけない。」
「………」
「………」
好敵手と認めた同士、視線で終わりの始まりの合図を交わす。
『ゴンッ!。ゴンッ!。ボグッ!。ゴンッ…』
重とルドガーの拳がぶつかる。お互い衝撃で体が仰け反るが意地でも引かない。その勢いを利用して更に拳をぶつけ合う。技術の介入する要素の無い遥か昔から存在する男の証明。拳で語るその戦いは見る者の心を打つ物だった。
「…ぐっ!、そろそろ…倒れろよ重!。」
「はぁはぁ、…っ、ルドガーこそ、膝が笑ってぞ?。限界なんだろ?。」
拳は当然体にもダメージを与える。それでも視線は逸らさず次の攻撃に備える。2人の打ち合いは長くは続かなかった。
「…はぁはぁ…あぁ!くそっ!負けた、負けたのに…なんでこんな気持ちなんだ。もっと悔しがれよ俺は!。」
先にその場に倒れたのはルドガーだった。その身を覆っていた植物も枯れ果て天を仰ぎ地面に伏す。顔の上に置かれた手の下に覗く表情は心なしか笑っているように見えた。
「…ルドガー、楽しそう。楽しかった?。」
「あぁ、ハンナ、楽しかった。」
「何負けたのに笑ってんのよ。…強くなりなさいよ。次は負けないようにね。」
「うん、そうするよ。」
「…君達2人は俺と戦わないのか?。」
ルドガーに駆け寄るハンナとヨンナに重が尋ねる。
「えぇ、私達はルドガーと一連托生なの。だから…3人まとめてでいいわ。」
「ルドガー凄い楽しそうだった!。またやってあげてね。」
「…勿論、…L 2『火炎』×10。」
重の魔法が3人に着弾する。
『ユーロ代表、ルドガーメイゼン、ハンナフラン、ヨンナフラン脱落です。』
「…ふぅ、…っと、足にきてる。少し…休むか。」
3人の脱落を見届けた重の足取りがふらつく。これまでの戦いでのダメージと精神的な疲労が重なって座り込んでしまう。その姿は無防備に思えるが重は理解していた。最も頼りになるライバルが近づいていることを。
「よお、重、フラフラじゃねーか。」
「煩いよ剣、お前だって同じだろ。」
リリアンを倒した剣だった。座り込んだ重に背中合わせになるように腰掛ける。
「…あと残ってるのは銀城さん、李白、ユガナか。…銀城さんが李白を抑えてるから俺らは自由に動けたな。」
「うん、あの無属性は万能すぎるからね。…あ、あと気になってるのはアメストリアのユガナって人なんだけど。白凛さんは陽香さんの仇って言ってたから雷帝を破ったのがその人だと思う。」
「そう言えば…リリアンの奴も言ってたな。なんでも『凶星』って呼ばれてるらしいぜ。」
「………」
「………行けるか?。」
「うん、もう大丈夫。数的有利な状況を早く作った方がいい。」
立ち上がる剣。それに合わせて重も立ち上がる。
「…分かってるな重、お前は俺と銀城さんを盾にしてでも勝ち残れ。それがお前の成すべきことだぞ。」
「分かってる。それが大樹さんが描いた勝ち筋。俺が残って…それでニホンの勝ちだ。」
若きニホンの獅子たちが最後の戦場へ舞い降りる。




