混戦そして4属性を統べるもの
「王白凛、利き腕は右。炎属性魔法の使用により爆発的な加速が可能。ただしその技術は連続使用は出来ないはず。必ずクールタイムがある。でも風属性が使えるなら同じことが出来る可能性がある。戦闘スタイルは居合に近い。一撃でのヒットアンドアウェイ。魔力の流れの傾向から放出も使うことが予想される。重心の傾きがある。恐らくまだ体に武器を何か隠している。」
ヨンナが白凛についての分析を話す。この短時間でヨンナは全神経を白凛にのみ向けこの情報を絞り出した。
「…ごめん、これが限界。意識的に隠されるてる。」
「いや、ありがとうヨンナ。」
「…その観察眼は厄介だな。だが俺も男だ。女を守らんとする男が立ちはだかるのならその男が果てるまではその2人には手を出さんことを誓おう。」
重、白凛、ルドガーの3人の巴戦となったこの場。重と白凛の情報を手にしているルドガーとまだ手札を切っていない白凛。圧倒的に不利な重はしかし口火を切っていく。
「…L 2『蛍火』×1000‼︎。」
蛍火による弾幕。重はいつも自らの手で状況を切り開く。自分が有利だったことなんてほぼ無い。ならば切り進むより他には無い。前に進む勇気が重にはあった。
「…この魔法は目くらましのはず。重の夜炎はまだ情報がなかった。ならL4『水簾灯』。」
ルドガーの周りに水の球体が浮かび上がる。ルドガーを取り囲むように不規則に並ぶ球体はフワフワと宙を漂う。
「…L4『風域』…。…『半身の構え』…。」
白凛は風の魔法を自身の周囲に展開して半身に構える。居合の構えを取り煙に紛れるであろう重ねてに対して迎撃の態勢をとる。
「…………いた!。」
重の気配を察知したのはルドガーだった。即座に球体を重の前に配備する。
「…この魔法は俺だけのものじゃ無い。夜に灯る炎は光の中よりその輝きを増す!。」
重の両手の炎が一瞬だけ蒼く染まる。その瞬間重の周りの水の球体は形を維持できず爆散する。
「なに⁉︎。…L4『地殻の大楯』L4『水鏡の水面』L4『真空の盾』L4『火陣壁』‼︎。」
重の思わぬ攻撃力に慌ててルドガーが4属性の防御を張る。しかし即席の魔法では重が止まることはない。
「…揺らめき焦がせ。『夜炎・鉄菱』‼︎。」
それぞれの防御に触れる瞬間だけ勢いを増し蒼く染まる手刀。それはまるで散り際の線香花火のようであった。全ての防御を突破した重がルドガーに一撃を加えようとする時横から一陣の風が吹く。
「…八神重、お前は強き…男だ!。『命懸』‼︎。」
風と共に白凛が横入りする。重の死角、左後方からの強襲。小刀を抜き放ち中段に構えて突撃。白凛はこの一撃で重を終わらせるつもりだった。
「…ぐっ…。炎は伝う…物質を通して!。『流火』。」
白凛の小刀が背後から重の肩を貫く。しかし重はその自身に突き刺さる刃に夜炎の炎を浴びせる。刀身をさかのぼるように炎は白凛の元に辿り着く。そして重は刺された際の勢いも加算した速度でルドガーの体に拳を当てる。
「…ご!…がっ⁉︎……」
重の打撃にルドガーは地面に叩きつけられ転がる。
「「ルドガー‼︎。」」
ヨンナとハンナがルドガーの転がる先に入りその身で受け止める。2人は自分達の体で包むようにルドガーを抱きしめ転がる。
「…な!…そこまで魔力を操れるのか!。…普通なら…この刀から手を離せば良いだろう。…しかし我が友から譲り受けたこの業物を手放すぐらいなら…腕の一本くれてやる!。」
一方の白凛だが炎が自身の手に辿り着き腕が焼かれようとも白凛はその手を離さない。それは白凛の誇りだったからだ。白凛が持つ小刀は昔劉雅峰が与えた物だった。その業物に見合う男になる、その思いを胸に精進を重ねてきたのだ。そう易々と手放せるわけがない。
「…ぐわぁぁぁ…。ぅ、……くぅ、強烈な魔法だ。」
炎が消された時白凛の腕は焼け爛れていた。それでも小刀を握る手は緩められていない。
「…決め切れなかった。はぁはぁ…。」
地面に降り立った重は夜炎を解除して呼吸を乱す。火拳の比ではない程の熱量をその身に纏うため消費魔力も大きくなっているのだ。
「…重…くっ、なんて一撃だ。ヨンナ、ハンナありがとう。二人が止めてくれなかったら…終わっていたかもしれない。」
「…うっ、…それなら…早く決めちゃいなさい。次は助けないわよ。」
体中におった擦り傷が修復されながらヨンナが言う。
「ルドガー、頑張って。」
ハンナも相変わらずの口調ながらルドガーに声援を送る。
「…あぁ、『四大行』。魔法の基本属性は4属性。その全てを使う者は希少だ。でも…いない訳じゃない。現にニホンにもいた。それに3属性はそれなりにいる。だけど…これは俺以外で会ったことはない。」
ヨンナ、ハンナに支えられて立ち上がったルドガー。その四肢に火、水、土、風の魔力を纏う。
「…多属性なら分かると思うけど…それぞれの属性を別々に使うのはそこまで難しくない。なら混ぜるのは?。…俺にはそれが出来た。」
ルドガーが右腕と左腕を合わせる。それぞれ火と土の魔力を纏っていた。合わされた魔力がルドガーのまえで形を成す。
「…それは九老の…!。」
「…笑えてくる。たしかにそんな人今まで見たことない。」
「あぁ、そうだ。…俺は現存する全ての特異属性を再現できる。」
ルドガーの前には沸き立つ溶岩が溢れ出ていた。