後方支援特化のチカラ
「彼女達はルーナが見つけた新しい魔導師の形だよ。何も直接戦闘だけではないからね。サポートでも極めればそれは強さだ。」
「…ルドガー、カッコいいぃー!。」
「ふんっ、…よく分かってるじゃない。私達があんたを勝たせるわ。だから私達を守りながら頑張りなさい!。」
「…『火拳』。(…あまり長引かせるのはかなり危ない。でも…俺がこの3人を引き受けている間はユーロを釘付けにすることができる。)何かきっかけがあれば変わるか?。」
ユーロの3人を視界におさめながら重は思考を巡らせる。この3人を引き付ければ自分の勝率とは反比例にニホンの残り2人の自由度があがる。だが今の自分は負けることは許されない。ジレンマに苛まれる重は状況を変える一手を考えていた。
「…ふんふん、出たとこ勝負はあまり好まないみたいね。しっかり考えてる。その利点は取るべき選択を理解できるところだけど欠点は…勝機を逃すところ。あんたは分かっていない、私達を残すリスクの大きさを。」
「…ちっ、…」
ヨンナの言葉を聞いた重は焦りを見せ攻めこもうとする。
「左足を踏み出した。右手の火拳を使う可能性が一番高い。次点は何か魔法を放つ。どっちにしろ右手。人体構造的にね。そもそも右利きはどうして右の使用率が高めだし。」
「…なら俺は重の右手に注意を払うとしようか。左が来た時は…ハンナ頼むね。」
「オッケー、もう威力も大体わかってきた。取り敢えず最大と仮定して相殺しとくねー。」
「…っ、…『双砲火』!。」
「どうだい?2人の怖さがわかっただろ。人間自分の行動を予想されると動きにくくなる。その結果意図せぬ動きを取ってしまい自分の強みを殺す。重のその技は動きの中でないなら…なんてことない。L 4『水竜の巣篭もり』。」
ルドガーが魔法を唱えると水の竜が3人を守るようにとぐろを巻く。
『ジューーーーー…』
打ち消される双砲火。その際に水蒸気が発生し視界を遮る。それこそが重の狙いだった。重は煙に姿を隠し3人の元へ駆ける。ヨンナに動きを予測されるのは分かった。なら焦ったように見せてこの親善会では見せていない煙に紛れての奇襲をかけるつもりだった。
「ふわぁ〜、あ、そうね。あんたの過去の映像も徹夜で見たよ。結構好きみたいね、爆炎とか煙に隠れるのが。今回もやぶれかぶれじゃないでしょ、確実に紛れにきてる。」
「…な⁉︎そこまで…だけど…この位置なら!。」
ヨンナが調べた内容に驚愕するが目の前には無防備なヨンナ。そのまま右手で打撃を加えようとする。
「やっぱりヨンナが狙われるねー。そして…右手だね。『相殺』。」
ハンナが水の膜を展開。そこに追加で魔法を重ねていく。
「…そこだよ重。L 4『斬大地』『水月狂』。」
ハンナの魔法によって火拳を無効化され宙にいる重に向けルドガーが斬大地を放つ。せり上がった土の槍が更に円盤の形の水が上空から弧を描きながら襲いかかる。
「くっ…この!……やばい…」
重は空中で体を捻り水月狂を躱すが続々と地面から生えてくる槍に逃げ場を無くす。
「…隠してる場合じゃない!。解放!。」
重の背中から爆炎があがりその推進力で重はその場を離脱する。
「くそっ、こんなところで使ってしまったか。」
遅延魔法で体に施していたとっておきの多重魔法。最後の切り札として使うつもりだったそれを暴かれる。
「ヨンナから聞いてたよ。君はあのルーナを倒した若草大樹の弟子だ。そして遅延も使う可能性があることも。それでもう隠し事はないかな?。全てを暴かれたうえ行動を無意識に制限された君はもう俺には勝てない。」
(考えろ、考えろ、考えろ!。思考を止めるな。全てを使え。…くそくそくそ!。完全にこっちより用意が出来てる。一ミリも舐められていない!。)
考えを止めないことを若草から学んだ。しかしそれすらもヨンナの観察には破られている。重が欲するのは劇的な、奇跡のような変化。そして奇跡は願う者のところにやってくる。ただ、
「…陽香すまんがお前の仇を討つのは少し遅れそうだ。どのみち全員を倒すのだから…問題ないだろう。」
その変化が重の味方をするとは限らない。
「…ルドガー、気をつけて。光華の中で唯一私が事前に知らない魔導師だから。」