思い出した願い
ユーロに生まれたことを恥じる。その言葉は子供の時からたくさん聞いた。ただ伝統があるだけの国。昔の遺産に頼って研鑽を忘れた国。他国からの我が国の評判だ。実際わが国では魔導師が無意識に蔑まれている。多分劣等感を刺激するから。私はそれを認めない。子供ながらにそう誓った。誰もが祖国を誇れるようにする、ユーロは素晴らしい国だと認めさせる。そして笑いながら、邪険に見られることなく魔法の研鑽を詰めるようにする。その為には…強くならないといけない。それも私一人だけじゃダメだ。幸いにして私と同じ考えの同士にも出会えた。学年を超えた私達は努力を重ねた。さらに僥倖なのは当代のパラディンに任命された人物が手を貸してくれたこと。彼の研究は魔法の概念を刷新する素晴らしいものだった。仲間と手段を得た私達はユーロの名を轟かせよう。私たちの世代だけでは無理かもしれない。ならば次代に受け継ごう。幸い伝統を紡ぐことには慣れている。その為に今回の国際親善会では立ちはだかる全てを踏み砕く、そう決意した。
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「…嘘…。」
目の前にそう言葉を零すのが限界のルーナ。一筋見えた光明が途絶えた気がした。
「僕の魔法の中で大樹君は特別なんです。この魔法は片方が増殖を担い片方が成長を担っている。つまり貴女が僕に何かをするには先ず僕と大樹君を護る大樹くんを減らし、二人を同時に地面から手を外させ、その2人を地面に手をつく余裕を与えないまま、残りの大樹くんを掃討する。ここまでしてやっと2対1になるんです。」
若草が語る魔法の種。相手を雁字搦めにする仕組みの魔法であった。
「…それならっ!、その通りにしてやるわ!。私は負けられないのよ…。負けちゃダメなの。私の描いた夢物語に着いてきてくれたみんなの為に。集団を牽引する者には絶えず背中を見せ続ける義務がある。」
ルーナはそう叫ぶと四肢に力を込め若草の元へ駆ける。その表情は何かに押し潰されているかのようだった。
「…貴女は本当に苦しそうに魔法を使う。まるで昔の僕みたいだ。」
「自分一人で完結する必要なんてないんですよ。そんな人間はいない。貴女は確かに周りに頼られているかもしれない。」
「でも…彼らに頼ったことはありますか?。」
「…!。………」
若草の言葉に歩みを止めるルーナ。思い返すのは今までの研鑽の日々。自分の周りにいた仲間達。自分が先を歩かなければならない。弱い自分は見せれない。いつしかそんな風に考えるようになっていた現実。思い返せば思い返すほど若草の言葉が重くのしかかる。
「貴女の仲間はそんなに弱いのですか?。」
そんなルーナに若草が確信をつく言葉を投げかける。
「…っ、…違う。…あの子達は弱くない。私は…独りよがりだったのか?。押し付けていただけなのか?。」
「先ほど僕と戦ったえーと、ユーリ・テンネさん。彼女が言っていましたよ。『私はルーナを助けたい。彼女が縛られなくて済むようになりたい。』とね。」
若草が倒した3人の中で最も粘っていたのがユーロのユーリ・テンネだった。
「…そうか、私はいつからか向く方向を間違っていた。私が見た夢は…」
「笑いながら魔法の研鑽を詰める環境を作ること。」
ルーナが呟くように放った言葉は本心から零れ出た言葉だった。幼い頃からの願い、その根本だった。そしてルーナの顔から力が抜ける。それはまるで憑き物が落ちたかのように晴れやかな表情だった。
「…お前には…いいえ、貴方には感謝します。本当の私が戻ってくれた。無くした私が戻ってきた。」
若草に向けていた嫌悪感はなくなり微笑みを浮かべながらルーナが言う。
「しかし、この戦いの決着は別です。貴方には礼を尽くすが勝ちを譲る気はありません。」
ルーナが構えを取りながら言う。今までのような焦りは感じられない。
「それは僕も望むところです。本当の貴女との戦い、それを飲み込み僕は強くなる。」
決着の時が迫る。