奪い合う主導権
「三位一体ですか。面白いですね。大変興味を惹かれます。僕がその魔法を暴いてみせましょう。行こうか、大樹くん。」
若草と大樹くんが駆け出す。並びながら走りお互いの右の掌と左の掌を合わせる。
「…暴くか。言うだけなら自由だ。無論そんな事出来はしないだろうがな。」
迎え撃つルーナが手を振る。それに合わせ3つの龍が若草に向かう。
「…先ずは確認しなければいけないことがある。L4『炎糸』。」
若草と大樹くんが合わせていた手を離す。するとその間には燃える糸が無数に引かれていた。更に若草達が踏もうとする地面が迫り上がる。それによって動きに高さ、3次元が加わる。
「…一体目。狙うべきは風の龍。」
狙いを定めた若草。襲い来る龍の攻撃を躱しながら風龍に迫る。
「…ちょこまかと…煩わしい。動きが掴みきれない。」
ルーナは若草と大樹くんの動きを捉えられないでいた。落下点に待ち伏せても迫り上がる地面や風の板を貼られ紙一重で躱される。
「…見るのは僕達の動きばかりでいいんですか?。」
「なに?…しまった!。」
ルーナの足元から地面が迫り上がる。四方から迫り上がったら土の壁はルーナを覆い隠す。
「だが…まだ今なら…」
ルーナは唯一空いている上面に狙いを定めようとするが…
「僕はそんな詰めの甘い事をしませんよ。降り注げ風の槍。」
上空から若草が降ってくる。その周りに浮かぶ風の槍が空いた上面からルーナに降り注ぐ。
「…くそっ!。L4『水鏡』。」
ルーナは水の壁を生成し風の槍をやり過ごす。しかしそれは脱出の機会を逸する事を意味する。カシュー、という音と共に四方の壁から伸びた土が天井を形成。ルーナは闇に閉ざされる。
「…考えろ。奴は上空…。ならば…仕方あるまい。L4『爆炎留』。」
閉じ込められたルーナはある結論を出す。出るには若草が上空に今しかない。今…身を削るべきだと。炎の威力を閉じ込めた魔法を炸裂させ脱出を試みる。その決断までの速度は悪くはなかった。しかし相手が悪かった。
『ドォォォーーーーーーン!!』
「…かはっ、…はぁ、破れない…だと。あくまで只の土の壁。私の魔法で…無傷ですむはずが…」
「破壊された所から補修していけばいい。」
屋根の部分から若草の声がする。
「しかし!お前は上空に…っ!。もう一体か!。」
答えに辿り着いたルーナ。四方からの壁によって視界は極端に狭まっていた。更に上空にいる若草は攻撃体制。それによってその時に壁を破壊する方向へ思考を回すより余裕を奪われた。その時に壁の側に到着したのだ。もう一体の若草大樹が。
「………………。」
一連の流れが全て若草の掌の上であった事を悟ったルーナ。黙り込む。
(三体の龍に動きはない。やはり僕の大樹くんと同じ使用者の動きに対しリンクして動くタイプ。炎糸での攻撃も全て躱していた。だから使用者の視界を封じる。それであの三体は木偶に成り下がる。)
「よっと、…あとは動かないアレをバラすだけだ。大樹くんはそこに待機だ。」
若草が屋根から飛び降り、三体の龍に向かって歩き出す。
「…あれ?…三体じゃなかったの?。」
若草の右腕、肘から下が食いちぎられていた。若草の目には地面から飛び出してくる長い何かが映っていた。咄嗟のことで意識を完全にそちらに向けてしまう。
『チュドォォォォーーーン‼︎』
そしてルーナを囲っていた壁が破壊される。若草の意識が何かに向いたことで壁の修復が途切れた為である。
「…私は三体だけなんて一言も言ってない。」
再度使った炎の魔法によって出てきたルーナ。代替前の出血によって赤く染まりながらも凛と佇むその姿はまさに強者であった。
「…情報は正確にお願いしたいところですね。」
代替によって修復されたものの痛みまでは緩和されない。痛みに顔をしかめながら若草がぼやくのだった。
 




