若草とルーナ
時間は創士、霧島、若草が分かれた時に遡る。
「なぁなぁ、お前ら3人昨日なんかあったんか?。えらい機嫌悪そうやんけ。」
風待が目の前にいる1年生3人に話しかける。創士からこの3人の世話を仰せつかっている身としては尋ねずにはいられない。
「…別に何もねーよ。」
剣がぶっきらぼうに答える。その態度から何かがあったことは明白であった。
「…はぁ、お前はええわ。んで澪ちゃん何があったんや?。先輩に言うてみ。楽なるで。なんやったらそのまま惚れてもええねんで。」
3人の中で一番御し易いと考え澪にセクハラ混じりに話しかける。
「…風待君、女性に対する態度としてそれは如何と思いますね。夏のようになりたいですか?。」
それを咎める真利谷。風待のトラウマとなっている夏合宿での氷漬け事件を提案する。
「いや、その…すんません!。調子乗りました!。」
勢い良く頭を下げる風待。彼とて群の所属する者。逆らってはいけない存在ぐらいはわかる。
「分かればいいです。…とはいえ私も気にならないと言えば嘘になります。貴方達に昨日何があったのですか?。」
真利谷が3人に尋ねる。今控え室にいる中で最も上位の存在。その質問を誤魔化すほどの丹はない。
「実は…昨日大樹さんが僕達と練習試合をしないかって言ってきたんです。」
重がポツポツと話し始める。
「貴方達3人と、ですか?。それで?。」
「僕達も大樹さんは強いのはわかってました。でも…同じ代表になったらから…少しは近づいていると思ってました。」
「でも…」
「…でも?。」
「…ちっ!、3人でかかって負けたんだよ!。」
「貴方達がですか?。」
真利谷が聞き返す。その言葉を鵜呑みにすることが出来かねたからである。
「はい、私達3人は少なくとも…勝つつもりでやりました。大樹さんは強かったです。」
「成る程な。そんで機嫌が悪いってことか。」
「それにしてもお前ら3人をか。相変わらずあいつの底は知れんなぁ。…そんでお前らは若草が負けたらええと思ってんのか?。」
「そんなわけありません!。」
「大樹さんは僕達の…誇りです。あの人がいたから僕達はここまでこれた。」
「…はぁ、俺たちが悪いのはわかってる。いくら悔しくても応援はしてるに決まってる。」
風待の言葉に3人が反対する。勿論若草のことは尊敬しているし勝利を願っている。だけど昨日の悔しさがなくなったわけじゃない。そんなモヤモヤした気持ちだった。
「それならいいです。悔しくて仕方がない。大いに結構でしょう。その気持ちを忘れてはいけませんよ。」
(…恐らく彼はわざと3人を煽ったのでしょうね。更に成長させるために。)
「彼の戦いを見届けなさい。貴方達のために戦っているのですよ。」
ーーーーー-----------------
「へぇ、各国の代表が揃い踏みか。丁度良いタイミングだったみたいだな。」
黒髪の知的な執事のような風貌の光華代表音寧夜が同じ場所にいる3人に向かって言う。そこにいたのは、
「お前らは運がねぇな。このアメストリア帝国ナンバー4の俺と当たることになるとはな。」
金色の髪を荒々しく伸ばした野生的な男、アメストリア代表アーロン・ゴルド。
「野蛮ね。これだから男は嫌なの。」
赤毛をお下げ髪にしたソバカスの少女、ユーリ・テンネ。
「…楽しくなりそうですね。」
飄々とした態度の若草大樹。四つ巴の様相を呈していた。しかしこの場所は十分後には若草以外が脱落となる。
「…ふぅ、これで3人か。ふふっ、昨日の重君達との戦いの方が奮えたな。」
3人を脱落させた若草は変わらぬ態度で佇みながら次を思考する。
「出ておいでよ。いるんだろう?、えーとユーロ代表ルーナ・トラクトさん。」
「気づかれていたか。」
若草の声に応じるようにルーナが姿をあらわす。
「それだけの殺気を出していたら気付きますよ。」
「貴様はユーリをやってくれたからな。そうもなるだろ。」
「…………。」
「…………。」
『…ゴオォォォォォオ‼︎』
二人の間で豪炎がぶつかる。お互いに遅延魔法と無詠唱で魔法を発動していたのだ。
「…ニホン代表若草大樹。貴女は危なそうなのでここで僕が…倒します。」
「こちらのセリフだな。ユーロ代表ルーナ・トラクト。ユーロの未来のために貴様は邪魔だ。」