最硬に勝る者
「ただまぁ、対等になったとはいえ俺も不完全燃焼だ。この戦いが終わるまでにその硬いお前を叩き斬るとしよう。」
その手に持つ刀の切っ先を九老に向けながら創士が言う。
「…やってくれますね。僕の最硬が揺らぐことになるなんて。でも…貴方が突破したのは固まる前。その事実は変わらない。…変えさせない。」
九老が全身を黒い溶岩で固め創士に向かう。マグマの状態のように熱気での範囲攻撃は出来ないが硬度は最も高い形態であった。
『キューーーーーーン。…ガキッ!』
九老の攻撃を創士は刀の面を沿わせることでいなす。そして返すように斬りつける。しかしその斬撃は通らない。創士の持つ刀の刃が欠け始めていた。
「うむ、刃こぼれか。…研ぎ澄ませ。
魂を燃やせ。俺の心は何者にも屈さない。」
目を閉じた創士が言霊を紡ぐ。その右手に握られた刀は光を放ち様相を変える。
「…まだくるのか。」
それは苛立ったように見つめるのは九老。九老からすれば創士の方が速く、自分の武器である熱さと硬さの内、熱さを封じられた形になっている。勿論マグマの形態に成れはするものの先程刃が通った事実が九老の体を絡め取る。結果重鈍な溶岩を纏うしか勝機を見い出すことが出来ないでいた。
「…いくぞ。」
創士は新たに錬成した白刃の刀を目線の高さに構え駆け出す。
「何もしないと侮らないで下さい。『間欠泉』。」
「…っ、」
駆ける創士の目の前にマグマが噴き出す。それを見た創士は何とか踏み止まる。
「…この場に無数のマグマ溜まりを作りました。不用意に動けば…その一歩が命取りですよ!。」
創士に見えない所からの圧力をかける九老。まるでこの場を支配しているのは自分だと主張しているかのようであった。そして体から流れ出る溶岩を操り創士に襲いかかる。
「…そんなもので今の俺の歩みを止めることは無理だぞ。」
地面には無数の地雷。上空からは溶岩が襲い来る中、創士の取った決断は前進。迷う事なく歩を前に進める。
「…な⁉︎、怖くないのか!。その身が焼かれる痛みが。」
その姿に九老が動揺を見せる。
「ならばお前は怖くないのか?。負けることが。」
「俺は痛みよりも負けることを忌避する。」
そう言い歩みを速める創士。その眼前に立ちはだかるマグマを斬り裂き九老に切迫する。
「いくら貴方が身を削ろうとも…僕の防御を…」
「いつの話をしている。進む事を辞めた魔導士はその時から死んでいる。…有名な言葉だ。」
「………。」
創士の言葉に黙る九老。静かに迎撃の構えをとる。
「…『唯是刀』。
『ガキッ!。…ギギギギ…』
「…まさか…本当にさっきより…」
信じられないものを見るような顔をする九老。それもそのはず創士の刀は九老の体に食い込んでいた。
「…これが俺だ。」
更に刀に力を入れ遂には…
「…ぐあぁぁ、…くそっ!。」
宙を舞う九老の腕。紛れもなく溶岩を纏った九老最硬の状態だった。咄嗟の反応で操るマグマを創士に向ける。しかしそれも創士の剣撃によって断ち切られる。
「…はぁはぁ、…っ…。」
腕を再生しながらも肩で息をする九老。
「これで俺が斬れないものはなくなった。終わらせる。」
これまでは最硬の九老を正面から斬る為に封じていたあるもの。速度。九老の反応出来ない速度で九老を斬れる創士が迫る。それは王手と言っても過言ではない。
「まだです、よ。僕は負けれない、んだ。『噴煙』。」
九老が黒煙を撒き散らす。煙が晴れた時九老の姿はそこになかった。
「しまった。…っち、…退く勇気は持っていたか。」
立ち尽くす創士は不満げな顔だった。




