役目を全うする
「そこをどけぇぇぇぇ‼︎。」
「ここは譲れない!。」
ミュラーの拳と重の拳がぶつかる。
「ぐっ…重い…!。でも…下がるわけにはいかない!。L2『火炎』×10。」
拳を合わせた結果ミュラーの方が膂力があると判断した重。それでも引くわけにはいかないと火炎を背中から出し持ち堪えようとする。
「お、重いだと⁉︎。お前…こんな可憐な淑女に向かってそんなことを…『A』!。」
『ポォォォォォオ‼︎』
ミュラーの拳から汽笛が鳴り響く。
「な、なんだ。押されてる?。」
ジリジリと均衡が破れ重が押され始める。
「ふははははっ。吹き飛べ馬鹿野郎‼︎。」
ついにはミュラーが拳を振り切ってしまう。その威力は凄まじく重は吹き飛ばされる。
「…さてと…あの女は何処に行った?。フランクの仇…逃がさんぞ!。『C』。」
ミュラーを中心に礫が飛び散っていく。均等に飛び散っていく礫はあるところで歪に面を歪ませる。
「ふむふむ、そこか。『B』!。」
ミュラーの足元の土が爆発を起こしたかの様に隆起する。それに伴いミュラーも驚異の加速で前進する。
「…まさか見つかるとは。頭も回るのですね。」
その眼前に真利谷の姿。ミュラーは礫による範囲攻撃で真利谷の迷彩を無効化していた。
「あれ?あんたまで私のことを馬鹿にするの?。怒ったよ…『AA』。」
両手に纏った拳から汽笛が鳴り響き、臨戦態勢になる。あとは魔法の使えない真利谷にその拳が叩き込まれるのを待つのみだった。
「…がっ…⁉︎。…ぶっ飛ばしたのに戻ってきたのか。それにしても後ろから不意打ちとは卑怯な男だ。許さんぞ。『O』。」
そのミュラーの背後から炎の塊が着弾する。それを受けたミュラーは地面に沈み込み姿を消す。
「はぁ、はぁ…俺はしつこいですよ。真利谷さんの棄権が成立するまで粘らせてもらいます。」
「…八神重君、大丈夫ですか?。かなり飛ばされていましたが。」
「あぁ、はい、飛ばされるのは慣れてるんで。火炎で飛んで戻ってきました。…それよりあの人の魔法…」
「えぇ、恐らく詠唱の短縮。それもかなり高度なものです。」
魔法名の詠唱短縮。その名の通り魔法名を短縮することで魔法の発動を速やかに行う技術。
「ほとんど無詠唱と言っても良い程の短縮。かなり厄介です…。」
『ガシッ‼︎』
「きゃっ!。これは…」
「真利谷さん!。」
突如真利谷の足元から腕が飛び出て真利谷の足を掴む。そのまま地中に引きずり込もうとするが間一髪重が真利谷の体を抱きかかえる。
「ぐっ…強い。このままだと…」
真利谷を抱える重の足元も徐々に地面にめり込み始めていた。
「…まだ魔力は少し残っています。だから私ごとやりなさい。」
「…はい。L2『火炎』×10。」
真利谷の言葉を受け重が地面に向けて火炎を放つ。射出口を絞った魔法であったが真利谷の足を少し焼く。それでもなんとかその場を離れることには成功した。
「ふぅ、真利谷さん大丈夫でしたか?。」
「…はい、私は大丈夫です。…魔力のコントロールがかなり上手くなりましたね。正直言えばもう少し魔力を削られると思っていましたよ。」
「また逃げられたか。もう時間もないみたいだなぁ。『BBSAA』。」
地面から出てきたミュラーが時間を確認する。真利谷の棄権が成立するまで残り18秒。
「速い!。…真利谷さん後ろに…」
「甘い、甘い!。」
真利谷を庇うように立ち塞がる重。しかしそれを嘲笑うかのように通り過ぎる。
「…させるかっ‼︎。」
何かに気付いた重。即座に後ろに回る。そこには着地から更に地面の爆発によって加速したミュラーがいた。
「よく気付いたね。でもねその姿勢で防げるかい?。私の攻撃の強さを舐めてないかい?。」
ミュラーの手には大きな槌が握られている。更に拳からは熱気が溢れそれがハンマーにも伝わる。
「…そっちこそ分かってるんですか?。僕が…覚悟を決めていることを。」
重は火拳を発動。ミュラーの攻撃を避けるでも防ぐでもなく受けた。それはある目的の為だけだった。
「ぐっ、ぐわぁぁぁぁぁ‼︎。」
ミュラーの攻撃を受けた重は衝撃によって錐揉みになりながら壁にぶつかる。それでも口元には笑みが浮かべられていた。その理由は…
『3分が経過しました。ニホン、真利谷氷雨選手の棄権が承認されました。』
「はぁ?。あ、おい…。お前よくもやってくれたな。」
「へへ…やってやりまし…たよ。」
『ニホン、八神重選手脱落です。』
自分の役目を果たした重は魔力切れをおこし脱落するのだった。