棄権の危険
(さてと…あぁは言ったものの現状を分析するとユーロの女性を相手にするのは…得策ではありませんね。最善はあの光華の雷帝を倒すこと。次点は…私も棄権すること。しかしその為には今どこにいるとも限らない彼の力が必要ですね。)
真利谷はミュラーの挑発とも思える発言に乗るふりをしながらも状況を判断していた。その結果…
「…何もしないのは最大の悪手ですね。折角夢坂君が追い詰めた雷帝をみすみす逃す手はないでしょう。『氷装』。」
真利谷が残りの魔力を振り絞り氷で出来た鎧を纏う。そこに、
「…おぉ、揃ってるな。さっきのアナウンスも聞いた。俺も参戦させてくれよ。」
混戦の様相を呈している場に男が現れる。リリアンであった。
「時間もないんだろ?。L4『爪牙の双牙』。」
リリアンが両手に鎌のようなものを錬成し斬りかかる。
「な、これは…陽香さん、逃げて…」
その剣撃を受けた九老。何かに気づいたのか慌てた陽香に忠告をする。
「おいおい馬鹿なことを言うなよ。お前は光華最防の男だろ。それを…」
「そんな事言ってる場合じゃない!。この男は…強い!。」
九老の足元から黒い土が躍り出てリリアンと自分達の間に割って入る。しかし次の瞬間には黒土は力を失ったかのようにその場に落ちていた。
「うわっ、…硬てーな。刃こぼれしちまったよ。L1『純硬化』っと。楽しくなってきた。さっきの彼奴は中途半端だったからな。」
「これは好機ですね。今なら棄権出来…」
光華勢とリリアンが戦うのをみた真利谷が身を隠そうとするが…
「先ずはあんただ。フランクの仇は討たせてもらう。」
ミュラーが立ち塞がる。
「…そうにもありませんね。」
真利谷が覚悟を決めて向き合おうとする。目の前の相手と戦えば良くて相打ち、悪ければ犬死することになる。それでもやるしか選択肢がなかったのだ。そこへ、
「L2『蛍火』×1000!。L2『火炎』×1000!。」
荒れ狂う炎が辺り構わず降り注ぐ。それは新たな選択肢の登場だった。
「この魔法は…来ましたか!。八神重君。」
「なんだよ、棄権すりゃ良かったのによ。」
「俺は俺の出来ることをやる!。今するべきは真利谷さん!。あなたを無事に棄権させることだ!。」
「…ありがとう。『氷煌幻華』。私真利谷氷雨は棄権します。」
真利谷が魔法を唱えその後棄権を宣言する。真利谷の姿が煌めく氷に紛れ見えなくなる。
「おいおい、フランクを殺っといてトンズラなんて許すわけないだろ!。」
「物騒な人だな。でも俺が通さないですよ。」
「そこを退け!。」
「どかしてみたらどうですか?。」
「…おい九老、大丈夫なのか?。時間はまだなのか。」
「…ぐっ…はぁはぁ、大丈夫ですよ。それにしてもあなたは強いですね。まさか…僕の防御を…実にシンプルに破ってくる。」
「俺は対火属性特化なんだけどよ、その結果つうかなんか出来るようになったんだよな、神速の剣撃。」
重の炎や九老の黒土を破ったのは魔法ではなかった。リリアンの個人技。圧倒的な身体能力。稀に出てくる。魔法に匹敵するほどの天賦の才能。リリアンの場合はそれに魔法も加わる。
「まぁ、万能だよな。」
「…九老…。」
「そんな声を出さないでください。頼りになるお姉さんでしょう。」
「…陽香さん離れてください。ここからは巻き込まない自信はないですよ。」
「…九老攻めるのか?。…分かった。私のことは無視してくれていい。」
「…本当は隠しておきたかった。この試合だけでなく親善会でもです。」
「…はぁ〜、『熔帝』。」
九老の体が赤くなりグツグツと沸き立つ。体表には黒い熔岩が形成されその熱気を放っている。
「…へぇ、光華はそこまでいってるんだ。新しい属性、しかも帝とはね。」
「最硬の堅守、その暴力的なまでの攻撃性をお見せします。」
次回更新はお休みさせていただきます。
次の更新は年明け1月3日になります。
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