知略の無駄遣い
「おーい、なんか届いてたぞ!。」
全星寮、放課後の訓練…ではなく教師による連行→未提出課題の提出要請→逃走→監禁及び課題提出を終えた剣が4枚の封筒を手に帰寮する。
「遅かったね剣、その様子を見ると…かなり絞られたようだね。」
剣を出迎えた若草が剣の様子を見て苦笑いをしながら言う。剣は短時間でやつれており事情を知らない人が見ればどれ程の特訓をしていたのか⁉︎と賞賛の声をかけるほどだった。
「こいつは自業自得ですよ。みんなやってることなんですから。代表になっても関係ないですね。」
2階から降りてきた重がため息をつきながら剣に説教をする。そもそも今回の課題も代表に選ばれたことにより遅れて出すことを許可された物を全く手をつけていなかったが為に起こったことだった。
「…ったく免除でもいいだろ。それよりこれだよ、これ!。んっ!。」
剣が若草、重、そしてリビングのソファーに座っていた澪にふうとうを手渡す。
「これは…学園からですね。一体なんでしょう。」
4人揃って封筒を開ける音が寮内に響く。
『国際親善会代表の生徒へ
この度は代表選出おめでとうございます。既にご存知とは思いますが、あと1週間で親善会は開催の運びとなります。開催日には国を挙げての式典が開かれることになっています。そこには国の要職に就く方々も見えるでしょう。そこで皆さんには揃いの服装を着ていただくことになりました。その採寸を行いますので明日の放課後多目的ホールに集合してください。これはすべての用件より優先させてください。』
「国を挙げての式典かー。楽しみだなぁ。」
「くそ、捕まるのが明日だったらこれを理由に逃げれたのに。」
「揃いの服装…。私も頑張ります。」
「…………。」
それぞれ思い思いの感想を述べる3人だが1人書面を見て沈黙する男がいた。
「あれ?大樹さんどうしたんですか?。」
普段から笑みを絶やすことのない若草の悩んだような顔に当然1年生3人は疑問を覚える。
「…ん?。いや、なんでもないよ。…せっかく作った服をどのタイミングで着ようかなと思っただけさ。」
重からの質問に隅に置かれた段ボールからある物を取り出しながら若草が答える。
「これは…!。大樹さんが作ったんですか?。…え!本当に作ったんですよね?。」
若草が取り出した物。キッチリとした黒のスーツ上下。ジャケットの裏側にはそれぞれ名前が刺繍されておりサイズもぴったりだった。
「ふふふ…折角の舞台だからね。晴れやかにいこうとしていたのさ。…でも着る機会はなさそうだね。」
少しがっかりしたように若草が言う。
「…どのタイミングで作ったんだよ。てか作れる物なのか?。」
「な、なんでサイズぴったりなの?。(最近頑張って痩せたのにそれに合わされてる。)」
1年生3人は相変わらずの若草の行動に動揺を隠せない。
「あぁ、そうだ。3人とも試合ではこの服を着るといいよ。伸縮性のある素材で作ってあるし動きの邪魔はしないはずだよ。…まぁこんな服着たくないって言うなら勿論強制はしないよ。あくまで僕は着てくれたら嬉しいってだけさ。だから別に本当に着なくてもいいんだ。気が向いたら着てくれればいいから。…指突いて痛かったなぁ。」
「…も、勿論着ますよ。大樹さんが俺たちの為に作ってくれたんですし。」
「私もこの服を着て頑張りたいと思います!。」
「なんだよその言い方。…はぁ、別にいいけどよ。」
若草の精神的にクル着て欲しいアピールの前に当然着用することを宣言する3人。超絶技巧と呼ばれる男の戦略勝ちであった。
「そうかい、それは嬉しいね。じゃあ僕は剣君の分のご飯を温めてくるね。」
キッチンに向かう若草。その顔が一瞬曇ったことに3人は気づかない。
次回更新はお休みします。
次の更新は10月29日になります。




