意地の戦い
お互いの全てを賭けた一撃。その一撃が交錯したあと意地の戦いになっていた。
「ぐっ…(ダメだ。倒れたら…澪ちゃんの思いも背負ってるんだろ!。先に倒れるわけにはいかない)…楽しいですね。」
焼け付く両腕の痛み、更には魔力の枯渇からくる虚脱感と戦いながらかろうじて立っている重。虚勢を張るも上手く笑えていない。
「…(六花はもう駄目か、魔力切れだよね。私も…もう…1人ならたおれていた。でも…この体には2つの意思がある。)…まだまだやれる。」
既に魔力切れで息も絶え絶えな八鹿。しかし先輩の意地か強がりをみせる。
「…………、あ、…」
「…………、う、…」
お互いに一歩歩みを進める。と同時に崩れ落ちる体。2人の意思に反して崩れる速度は止まらない。
「「ドサッ…」」
「…同時だね。全くの同時だ。これは…ドロー。引き分けとします。」
その瞬間を見守っていた若草。2人が地面に設置する瞬間を見定め判定を下す。
「さてと…おいで大樹君。4人を運ばないといけない。」
若草は大樹君を錬成し4人を運ばせる。
「これで2人の実力は認めていただけますね。」
倒れている八鹿、六花に向かって若草が尋ねる。
「…文句ないよ。」
「…異議はないよ。」
「「私達の背中を預けるに足る後輩達だ。」」
若草の目を見て答える大蔵姉妹。実際に拳を交え疑うことは何もなかった。
「わかりました。それではこれでこの勝負を終了とさせていただきます。」
若草が終了を告げ4人は大樹君に魔法によって運ばれていく。
「ふむ、引き分けか。しかしこれで奴らは自分達の有用性を証明したわけだ。この戦いを見た者で奴らの代表入りを拒む者はいない。」
舞台に降りてきた創士が戦いを振り返りながら言う。
「それにしてもこれで1年は既に4人か、豊作だよまったく。その上あと2人控えているのだからな。」
創士が真利谷から渡された名簿を見ながら呟く。その名簿には第二次候補に勧められた者の名前が書かれていた。
「まぁ頼りになると思うことにしよう。」
「そうですね。そう思うと僕たちの学年は不甲斐ないですね。申し訳ないです。」
若草が肩をすくめながら言う。今現在2年は3人しか選ばれておらず追加候補にも名前は少ない。
「お前らの学年は折れた奴が多かったんだ。諦めちまった馬鹿どもが少なからずいた。霧島飛春と若草大樹という天才がいたからな。」
入学当初から他を寄せ付けなかった霧島飛春。人当たりは良いが本心を知れない若草大樹。2人は2年の中で隔絶された存在だった。
「霧島君はともかく僕は天才なんかじゃないですよ。」
「下手な謙遜は嫌味になるぞ?。別にお前を責めてるわけじゃない。むしろ目標にすべき天才が身近にいることを好機と捉えられなかったお前らの同期に問題があるんだ。周りがお前らについていけなかっただけだ。」
「成る程…なら僕は運が良かった。共に研鑽出来る後輩達と出逢えたんですから。」
「…そうとらえるか。変わった奴だな。」
「僕は天才ではないですが…変わっていると自負しています。」
「そういうところが喰えないな。まぁいいか。2人に良くやったと伝えておいてくれ。それと更に精進しろとな。」
創士はそれだけ伝えると真利谷と共に闘技場をあとにする。
「…さてと、お祝いだね。2人の頑張りを称さないと。」
表情を緩めた若草が去っていった。