ユー・ニード・サム・プラクティス(You need some practice) #3(end)
#2からの続き。
エリエルの顔色は部屋に戻った頃には大分と良くなっていたが、まだ若干憔悴感が窺えた。「同族殺しで精神的衝撃を負った疲労で今は取り敢えず休息を欲しているだろうが、このまま休むとその後に腑抜けてしまうからな。悪いが無理にでも少し講義を行う」
千迅が非情にも精魂消耗のエリエルを休ませないのは、今の精神状態で静養をとれば一息ついてから心的外傷後ストレス障害を患う可能性が高いからだ。こちらに殺意を向ける敵を、緊急避難的な自衛で返り討ちにしても罪ではないことを心で理解させる必要がある。
実際この世界は命が安い。身分のある貴族が平民を殺してもまず罪に問われることがない。千迅が市場で富者であるように振る舞ってみたら直ぐに食い付く者が出た結果から、貧困に喘げば他人から殺して奪うことに躊躇ない連中が多いことも安易に推測できる。
千迅は魔術士長からエリエルの身の上の説明を簡単に受けていた。下流貴族男爵家の存続の為に父親に道具として使われ、政略結婚的に顔も知らない相手の元に嫁がされるのが嫌で、成人前の12歳で家を出て宮廷魔術士見習いの寄宿舎で暮らすようになった、と。
正直千迅は、自分の嫁である吟弥と祝言を挙げる時、吟弥の母親と繋がりを持ちたいと狙っていた外野たちが色々と妨害を企み非常に煩かったので、自分とは関係がなくとも政略結婚と耳にしただけで唾棄したい怒りの衝動に駆られるようになっていた。
元の世界で弟子をとったことが無いのに、エリエルをすんなり弟子にしたのは、末端とはいえ普通なら純粋培養されて親に逆らう気概のない貴族の娘でありながら、自分の運命を切り開こうとする芯の強さ、換言すれば、その往生際の悪さが気に入ったからである。
同情もあるが、その心意気に何となく千迅自身が共感する部分も多いのだ。エリエルが幼くて見目が可愛いというのもあるし、ゲームめいた育成を愉しんでみたいという心境もあるが、純粋にこの娘に助力してやろうという気持ちも大きかった。
だから千迅は、急迫不条理に命や権利の蚕食を狙う害悪に対して徹底的に交戦する術をエリエルに叩き込んでやろうと思ったのだ。それには、快楽殺人者になる必要はないが、自分を護る為なら他者の命を奪える強さが、この世界では絶対に必須であると結論付けた。
そういう思惑から、先刻千迅はかなり強引に、こちらから金と命を奪おうとしたゴロツキたちを虫の息にまで痛めつけた後に、トドメを刺させたのである。ゴロツキたちの死相は色濃く、エリエルは苦しみから開放し安楽死させてやっただけ、という免責も用意して。
手間が掛かって面倒ではあるが、千迅がこれより行わねばならぬのは心療的なカウンセリングである。暗示的な口車術も織り交ぜてエリエルを、殺人に対する禁忌感は失わないままに、自身や自身の大切なものの守護の為には躊躇わず敵を屠れるように示教するのだ。
3時間程をかけて、千迅の講義めいたカウンセリングは終了した。結果、訓誨によってエリエルの心理を、殺人行為に対する嫌悪感は残しつつも、正当防衛で敵排除の為に殺傷を犯す分には罪の意識は限りなく感じない、という境地にまで導くことに成功した。
エリエルに疲れの色は濃かったが、その表情は柔らかになり、或る種、悟りの境地に至った修行者のような穏やかさが窺えた。色々と自分なりに吹っ切れたのだろう。エリエルの魂が確実に一つ上の域の頑強さに達したのは間違いないだろう。
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時刻は既に夜の11時を廻っている。そろそろエリエルを解放して寝かしてやらねば、と千迅は思いつつも、最後にどの程度の魔術を使えるのか、その実力だけは早急に確かめてから今日はお開きにしようと、この後の段取りを考えた。
今までのカウンセリングも、半分はインストラクションを授ける行為であり、内容も謂わば座学に相当したのかも知れない。一変、この先に行うのは実技とするべきか。「疲労もピークだろうが、後もう少し頑張ってくれよエリエル。次ので今日の課題は終わりだ」
「はい」千迅の要求に、エリエルは所労を隠して気丈にも力強く頷いた。「君の実力を正確に把握しておきたい。目の前で魔術を見せてくれるか」「わたしは何をすれば?」「放出系で火球を撃てるといったな」「はい」「なら、それを全力で私に放て。殺す気で」
「エッ!?」エリエルの表情に動揺が走った。「そんな真似をして、もし師匠に何か遭ったら……」「心配無用だ。私は結構頑丈だから」千迅が微笑を浮かべる。「私が外壁側に位置するから、エリエルは廊下側に立って、そこから火球を撃て。いいね?」
「……は……い」エリエルには魔術で人間を攻撃した経験は未だない。魔術を人に向ける禁忌感。殺す気で、の言葉にも色々と思う処があるのだろう。返事は歯切れが悪かった。しかし、師匠の指示なので従わない訳にはいかない。覚悟を決めて杖を片手に握り構えた。
「炎よ、燃える炎よ、集いて火球となり給え」エリエルは精神集中し、祈祷文を詠唱する。やがて胸の高さの空中にソフトボール大の真っ赤に燃える火の玉が創生される。「行け!」エリエルが杖の先端を千迅に向けると、火球はそれなりに高速で標的に発射される。
「ふむ」千迅は火球を黒い革手袋を嵌めた右手で受け止める。右手から燻るような白煙が若干立ち昇った。「温度は1000°Cくらいか。サイズは小さい目。魔術発動媒体として杖が必要で、更に詠唱を伴うのも問題点だな。そこらの改善を考えるか」
千迅は思案を巡らせながら、右手の火球を握り潰した。煤がパラパラと掌から溢れ落ちる。「あの、火球をキャッチして、手は大丈夫ですか?」エリエルが心配そうに尋ねた。「ああ問題は無いよ。この手袋も魔術武器だからな。多少焼き焦げても勝手に再生する」
千迅は右掌を開いてエリエルに見せる。僅かに煤がこびりついている程度で、それも払えば終わりで元通りになり、手袋は無傷で穴1つ空いてなかった。「杖も詠唱も無しで、強力なのや弱いのやバリエーションを撃てるように要練習だな。今後の課題にしよう」
「アッ、ハイ」エリエルは頷いた。火球を防御魔術で抵抗するのではなく、手で受け止めて握り潰すという大道芸めいた荒業を見せつけられて、心中は動揺していた。
流石は異界の魔術士と感心すべきか、こちらの常識からすると師匠はおかしい、と思った。
「今夜はこれで終わりにしよう。湯桶の用意を女給に頼むと良い。……否、下で寝酒を一杯引っ掛けたいから、序に私が頼んでおこう。エリエルはここで待てば良い。沐浴で身体を清めたら、ゆっくり休むといい」
そういい残すと、千迅は部屋を出て宿の一階にと下りて行った。「ふう」その瞬間、エリエルは一気に疲れが吹き出したように感じて、ヘニャっとベットに座り込んだ。「修行をつけて貰えるのは嬉しいけれど、明日から凄く大変そう」苦笑しながら呟いた。
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翌日、エリエルが覚醒すると既に昼だった。余程疲れていたのだろう、ベットに入ったら瞬く間に意識が堕ちて、気付いたら今という為体っぷりであった。「起きたか。顔洗って、下で飯食って来たらどうだ?」黒Yシャツ姿の千迅が目覚めたエリエルに声を掛けた。
「アッ、お早う御座います、師匠」肉親以外に寝起き顔を見られるのが始めてのエリエルは、羞恥心めいた感情で顔をほんのり赤くする。そして気付く。「あれ、何をしてますの?」Yシャツを腕まくりで千迅は、床に直径2メートル程の魔法円らしき図形を描いていた。
「魔術練習用の舞台を準備してるんだよ」千迅の説明にエリエルが室内を見廻せば、自分の寝ているベットも含めて、全てのベットが壁際に寄せられて、部屋の中央に空きスペースが作られていた。そこに魔法円が完成して、木箱で祭壇らしき物まで作成されていた。
「まあこんなもんだろう」千迅は葉巻を取り出して咥えた。「アブラメリン行という修行法のアレンジ版を考えてみたが、予想以上に旨く作れた。食事が終わって一息ついたら始めるから、身支度してとっとと飯を食ってこいよ」千迅は葉巻に火を着けて吹かし始める。
「わ、判りました」エリエルは飛び起きると、洗面所に向かった。顔を洗い、それから一階の食堂で朝兼昼の食事を手っ取り早く摂ることにする。余りノンビリしていると師匠に失礼だとアリエルは焦った。食事後にどんな鍛錬が待つのか? 期待と不安が入り混じる。
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エリエルが食事を終えて戻ると、部屋の中には急拵えの簡易祭壇に、得体の知れない道具がごちゃごちゃと並べられていた。エリエルの目から見ると、色取り取りの紐がのたくり、ツマミのような物がついた重そうな灰色の箱、小さい文字盤が沢山ついた板、等など。
「なんです、これ?」「何と訊かれてもこれと決まった名称はないんだが、敢えていうなら魔術実戦訓練用のシュミレーター装置……かな?」エリエルの質問に千迅は煮え切らない回答を返す。手持ちから適当に選択したので本人も何かはっきりしない曖昧な物らしい。
千迅が祭壇という名の木箱の上にセップアップしていたのは、固有空間内に所有している付喪神化しそうなPCコレクションの中の1つで、1984年にCASIOから発売されたMSXのPV-7であった。モニターとして4インチの小型液晶がビデオケーブルで接続されている。
電源供給は12V50Ahの密閉式鉛電池×2並列から行っている。PV-7のRatingはDC10V・8Wである為、定格1.5Aの低損失レギュレーターでバッテリー電圧の12Vを降圧し安定した10Vに変換してPV-7に供給している。液晶モニターはバッテリー電圧をそのまま入れている。
鉛電池があると、ライフライン未完備で電源確保が難しい異世界でも電化製品が使用可能で便利だ。太陽電池モジュールも用意があるので充電も問題無い。千迅は自分の魔力に馴染ませるのに常に固有空間内に何でも大量に詰め込んでいるので、在庫は倉庫並である。
千迅が物入れとして使用する固有空間は、元々は誕生して間もない“隠れ里”を丸ごと1つ乗っ取って自分用に書き換えたもので、僻地の小集落が収まる程度の容量がある。小さな異世界を倉庫として活用しているので、大量に入る。何とも恐るべき収納術である。
MSXのカートリッジスロットには両面銅張り生基板で作成された自作ハーネスが挿入してあり、そこからカラフルなリボンケーブルが伸びてPeripheral Interface Controller等が盛ってある裸基板に接続され、更にそこから再びヘッドギアにケーブルが伸びている。
ヘッドギアと表現すると格好が良いが、何の事はない、工事用のABS樹脂ヘルメットのインナーに脳波想定用のセンサーや電極を貼り付けて自作してあるだけの代物である。更に千迅は、固有空間から肘掛け付き折畳座椅子を取り出し、魔法円の真ん中に設置した。
「本来マトモにやったら半年掛かる行を、1日か2日で終わらす為のカラクリだよ。食事が済んだんなら早速始めるから、魔法円の真ん中に座ってこれ被れ」魔法円と座椅子という何ともシュールな組み合わせの中心を千迅は指差した。
「……ハイ」そこはかとなく嫌な予感が働くが、エリエルは素直に従った。リボンケーブルが伸びたヘルメットも被る。「君にはこれから限りなくリアルに近い仮想現実で怪物と戦闘して、実戦の中で魔術の経験値をタップリ稼いで貰おうと思う」千迅がニヤと笑う。
「エッ! なんですか、それ?」「この精怪化一歩手前のMSX──正確にいえば記憶域はアーカシャ記録から勝手に拝借してページング方式で差し替え、この世と地繋がりで存在する異世界“Dreamland”の余剰土地を仮想世界創造の領域として同じく拝借して……」
「あ、いーです。聞いても全然判りませんからもう説明いいです」千迅が理解不能な解説を始めたので、エリエルは慌てて止めた。「何だよ。折角メインRAM8KBしかないPV-7でどうやって仮想世界を構築してるかの種明かしなのに。マニアなら食いつく部分なんだが」
「わたしマニアでないです」「そうか。残念だ。まあ兎に角、寝たら別世界で怪物と遭遇する設定だから存分に戦ってこい。安全の為に死ぬ前には目覚めるようにしてあるから、そこは安心しろ」「要するに現実に近い夢の中で戦闘経験を積め、ということですね?」
「端的にはそういうことだ。夢の中といっても攻撃受けたら現実の10~20分の1程度の痛みは感じるし、大きな怪我すればリアルの身体も同じようにダメージ受けるから気を付けてな。まあ私は治療もしてやれるが」「エッ。じゃ、もし死んじゃったら?」
「夢の中で死んだら死ぬよ。だが、先刻もいったがその前に引き戻してやるからそこは大丈夫だ」「色々不安ですが……、信用してます」「死線を潜り抜けるのが一番の修行だしな。実戦の中で無詠唱のコツを憶えてくるように。後、杖もなしで使えるようになれ」
「ハードルが高いです」「若いから大丈夫だ。無詠唱の魔術なぞ“子供の自転車”と同じでコツを覚えた途端あっという間に使い熟せるようになるさ。そうだ、杖は預かっておこうか。道具に頼らず魔術使えないと、捕まって身包み剥がされた時なんかに困るからな」
「凄く特殊なシチュエーションを想定してますね」「弟子として私と一緒に行動するなら、割りかし直ぐに体験する可能性も高いと思うが」「……そうなんですか」「予感はあるぞ。魔術士長とは友好的だったが、こっち来た瞬間から沢山敵を作ってると思うからな」
微妙な表情を浮かべながらも、エリエルは杖を千迅に差し出した。それを受取ってから、千迅は指輪をエリエルに渡した。「代わりといっては何だが、これをやろう。防御力の多少上がる指輪だ」「えっ、いいんですか。こういうのかなり高いんでは?」
「自作品だから大したことはない。尤も効果も同様だが。無いよりはかなりマシだ」「師匠こういうの作れるんですか」「魔術士ならアミュレットやタリスマンは自作が基本だろ」「作れる魔術士なんてそういないです」「そこら辺は、文化の違いか」
千迅の元の世界の西洋魔術士的な解釈では、Amuletは持ち主に霊的防御を与える受動的な御守であり、Talismanは力を引き出す為に用いる御守とされている。電気的に、アミュレットは絶縁体、タリスマンはバッテリーと比喩されることもある。
「では有難く」指輪のサイズがどの指に合うかを確かめるエリエルに、千迅は薄笑いを浮かべながらアドバイスを送った。「アミュレットだからな。別に指に嵌めないでもポケットに忍ばせとくだけでも効果はあるぞ」
「じゃあそうします」エリエルはズボンのポケットに指輪を捩じ込んだ。「落とすなよ。……それでは目を瞑って……眠れ……」千迅が促すと、12時間近く惰眠を貪った直後にも拘らず、エリエルはあっという間に眠りに落ちた。
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エリエルが気付くとそこは枯れ果てた大地だった。乾いて干乾びた地面に、人骨めいた枯れ木しかない。周囲には一面、ミルク色の白い靄のような霧のような何かが薄く流れている。まるでスティーヴン・キングの“The Mist”のように。
「……ここが仮想世界?」急激な睡魔に襲われた直後にその場所に立っていた。それまでの千迅との遣り取りから推測すると、ここは仮想世界の中という結果になる。同時に眠りの中で辿り着く夢の中の世界、幻夢境でもあるのかと考える。
「敵出るんだよね?」千迅から、実戦で無詠唱魔術を極めろ、と申し付けられている以上、何らかの敵が出現して襲ってくるに違いない。エリエルは注意深く、周囲を見渡した。すると白濁した風景の彼方に、掘立小屋らしき建物を見つける。
取り敢えず近づいてみよう。エリエルは建物に向かって進んだ。今は未だ怪物にエンカウントしてはいない。何処かに潜んでいる敵に唐突にバックアタックやアンブッシュを受けては堪らないので、神経を張り詰めて細心の注意を払って歩く。
厳重警戒で進んだら、全く怪物に遭遇せずに小屋の前まで無事何事もなく到着してしまった。えらく肩透かしを喰らったような気分になるエリエル。「おかしいなぁ?」首を傾げる。しかし気を取り直して小屋の中を覗いてみることにする。
今の体験は夢の中の出来事みたいなものだから、ノックはまあいいか、とエリエルは省いて小屋のドアを開けてみた。だが省いたのは良くなかったかも知れない。ノックしておけば返事が返って来て、中に誰か居るのを察知した可能性は高く、心の準備も出来たろう。
小屋の中には、チリチリした短髪にドス黒ずんだ顔色をしたメタボリック体型のでっぷり腹で、両肩から背中にかけて絵の描かれた不健康そうなフンドシ一丁の中年男が3人。──エリエルには未知の存在。だが日本人なら判る、それはどう見てもヤクザだ!
男たちは皆一様に腕に細い何かを突き立てて気持ち良さそうなトリップめいた表情を浮かべていた。エリエルはこの場面を目撃しても行為の意味が理解出来ないが、読者であれば、ヤクザが注射器を腕に刺しているのではと思うだろう。勿論、医療行為の一環として。
「何だテメエ! 何処から湧いた?」エリエルに気付いた男の一人が、トロンとした目で睨みつけながら大声を上げた。「ん?」「あ?」残りの2人もエリアルに気付き、「「何だテメエ!」」と大声を発した。
「エッ? 何、なんなの? 師匠のいってた怪物ってこんなの? いや確かに怪物だけど、なんか違うよ」激しく込み上げてくるコレジャナイ感で、非常に遣る瀬無くなるエリエル。「見られたからには殺さにゃ」「……んだ」「でもその前に愉しませて貰うぞ!」
3人の男たちは細身のロングソード──長ドス──を手にして立ち上がると、ゆっくりしたゾンビめいた足取りでフラフラと揺れながらエリエルへと距離を詰める。「ヘヘヘヘヘ」「フフフフフ」「ヘヘヘヘヘ」
「嫌だ、来ないでよ」魂の奥底から湧き出る生理的嫌悪感に、エリエルは両の掌を男たちに向けた。(火球!)心の中で絶叫していた。すると、意外にあっさりと掌の前にソフトボール大の火球が形成されて真ん中の男に向かって飛んだ。
元々才能があったのか、それとも若さ故の柔軟性が良かったのか、或いは両方の要素が影響したお陰なのか、兎にも角にもエリエルは、無詠唱での魔術──火球の撃ち出し──のコツを、すんなり掴んだのであった。
エリエルは後に語る。「ええ、師匠がレッサー・ヤクザを敵として宛てがってくれたお陰で、対人戦の経験は充分に積めました。未熟者が無謀に戦いに身を投じて、敵を殺せずに自分が殺される、そんな悲劇が多いみたいですが、わたしには無縁でした。……」
師匠には色々と感謝することが多いです、と続けながらもエリエルは、「でもやっぱり、初めての戦闘訓練にあのヤクザってのを宛てがうのはないと思います。普通、初心者向けの練習相手なら、もっとこう適度な弱目の怪物とか、その選択はなかったのかと……」
ユー・ニード・サム・プラクティスはこれで終わりです。